企業の競争力を高めるデジタルトランスフォーメーション
「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション」とも呼ばれる英語の「Digital Transformation」の略語です。
ビジネスにおけるDXの定義としては、デジタルテクノロジーによって事業や組織体制を改革することで新たな事業やサービスを生み、収益や競争力を高める取り組みといえるでしょう。
我が国では経済産業省の主導で、日本企業におけるDXの励行がなされている状況です。中でも、経産省が提言した「2025年の崖」と呼ばれる課題が周知されて以降、日本企業におけるDX推進が活性化しはじめました。
なお、「2025年の崖」とは、日本企業が複雑で大掛かりな従来のシステムから脱却できなければ、2025年以降に最大12兆円の損失を被る可能性があるという提言です。企業が使用している既存システムの多くは、複雑でブラックボックス化しており、かつ老朽化も進んでいます。企業はそれらの既存システムを2025年までに刷新しなければなりません。
そのため、日本企業におけるDX推進は、もはや待ったなしの状況といえるでしょう。
DXを進めるには組織づくりが必要
DXを推進する場合、情報システム部門などに丸投げするだけではうまくいかないでしょう。そのため、DXを実現するためには、DX推進に最適な基盤や組織を作り上げることが必要です。
DX推進組織の編成パターンとは
DXを推進する組織編成として、代表的な3つのパターンを紹介します。
IT部門拡張型
ITやプログラミングなどのスキルを持つ、情報システム部門というようなIT部門を機能拡張することで、DXを推進する組織編成。ITスキルが高いメンバーが中心となってDXが推進されるため、最新デジタル技術やサービスの検討・導入をスムーズに行える点がメリットです。
しかし、業務やサービスに精通しているスタッフが少なく、業務効率化や保守・メンテナンスに重きを置きがちになり、ビジネスや現場にマッチしたDX推進が難しい点がデメリットといえるでしょう。
したがって、IT部門拡張型の組織編成でDXを推進する場合には、IT部門と事業部門を仲介するハブになる人材やセクションをつくる、または、IT部門と事業部門のメンバーをローテーションさせることで、デジタル化の橋渡し役として活躍してもらうのがよいでしょう。
事業部門主導型
情報システム部門などのサポートの下、事業展開する部門が主導となってDXを推進する組織編成。サービスに関わる部門のスタッフが直接推進することで、現場目線のDXを行える点がメリットです。
しかし、事業部門主導型の組織体制でDXを推進する場合は、先ほどのIT部門拡張型とは逆にITやシステムの知識が少ないスタッフが多く、実現性の低い施策が挙がってくることも多々あります。
そのため、DX施策を検討する場合、都度IT部門と連携をとって「何ができて、何ができないか」を確認しながら進めていくことがおすすめです。よって、両部門の折衝を適切に行えるスタッフがいると、プロジェクトがスムーズに進行するでしょう。
専門組織型
DX推進に特化した専門組織を新たに作る組織編成。DXを実現するために、社内の事業部門やIT部門のキーマン以外にも、外部ITベンダーやコンサルなどをメンバーに召喚するケースもあります。
さまざまな知見を持った優れたメンバーが集まることで、より革新性のある施策が生まれる可能性が高い点がメリットです。ただし、チームとしての一体感が保てないと、失敗するリスクもあることを認識しておく必要があります。
したがって、専門組織型の組織編成の場合は、DX推進プロジェクトを牽引できる優秀なリーダーの存在が不可欠です。ちなみに、DX推進を行う日本企業に最も多い組織編成が、専門組織型になります。
どの組織編成でDXを推進するかについては、企業のリソースや事業形態、DXで実現したい目的などによっても異なります。
そのため、DX推進プロジェクトを立ち上げる際、バイネームで担当者をアサインするなど、解像度が高い組織計画を立てるようにしましょう。
DX推進組織には何が必要?
次に、DX推進チームが持つべき要素や、与えるべき権限などを紹介します。
ビジネス構築や経営戦略の策定スキルを持った人材
DXを実現するためには、具体的な目標設定が不可欠です。
例えば、
・自社のどの分野で
・どの事業で
・どのような方法で
・どのような戦略を使って
・いつまでに
・何を実現する
といった項目について、それぞれ具体的に定める必要があります。
そのため、新規ビジネスを立ち上げたことがある人材や経営戦略部のスタッフなど、ビジネスに対する高いスキルを持つ人材を確保し、組織内にアサインすることが必要不可欠です。
また、DXは市況の変化に応じて、柔軟にサービス形態やビジネスモデル、戦略を変更する局面が訪れます。そのため、早期に自社の置かれた状況を理解、分析し、手持ちのアセットでどの打ち手を選ぶとベストなのかを判断できる人材が必要なのです。
なお、日本企業に限らず世界的に見てもDXに成功している企業は少なく、DXに失敗している企業のほうが圧倒的に多いというのが現状になります。
その理由としては、市況に即した新しいサービスやビジネスモデルを生み出し、多くの人の生活を豊かにすることが非常に困難という点が考えられます。
したがって、DXを成功に導くために「ビジネス構築や経営戦略の策定スキルを持った、優秀な人材をアサインできるかどうか」が成否を分けるといっても過言ではないでしょう。
現場でDXを推進できる人材の育成
DXを実現するためには、最新のデジタル技術やITツールの活用が不可欠です。そのため、ITやプログラミングのスキルを持つIT人材を組織内に配置しなくてはなりません。
しかし、現在IT人材はどの企業からも引く手あまたな状況のため、採用が難しい点が課題です。したがって、自社でIT人材を育成する体制をつくっておくことも重要になってきます。
ただし、前述した通りIT部門のスタッフは事業やサービスに対する知識が乏しく、現場ニーズにマッチした提案ができない方も多い点が問題です。そこで、現場業務を熟知し、業務プロセスを改革できる人材の育成も並行して進める必要があります。
DX推進においては、どうしても「DX=ITに詳しい人材が必要」という考えになりがちです。しかし、それ以上に大切なのは、現場業務を理解し、IT知識に詳しくないスタッフでも使えるデジタル技術やITツールを活用して業務プロセスを進化、変革できる人材です。
また、DXを推進していくと、プロジェクトの進行度合いによってさまざまなスキルを持った人材が必要になってきます。そのため、人事部門とも密に連携し、臨機応変に人材をアサインできる柔軟な組織編成を目指しましょう。
現状から脱却するロードマップや目標の策定
DXを実現するためには、具体的な戦略や目標を設定することが必須だと説明しました。しかし、ここで気を付けたいのが、現状の自社の状況やアセットだけを起点にした「フォアキャスティング」の視点だけで検討しないことです。
そのために、未来のあるべき姿を想像し、そこから逆算して目標やマイルストーンを決める「バックキャスティング」の視点でも検討しなくてはなりません。
フォアキャスティングの視点で検討を行うと、実現性が高い施策や目標が出てくる反面、現状から逸脱した高い目標や長期の戦略を立てづらい点がデメリットです。
一方、バックキャスティングの視点で検討するメリットは、あるべき未来から逆算してマイルストーンを設定できるため、長期ビジョンを立てやすい点でしょう。
そのため、現在のビジネスモデルや過去の成功体験に固執して、革新的な未来を描きづらいフォアキャスティング視点の弱点を補完できます。
DX推進のための組織編成事例
日本企業でDXに成功した組織編成の事例として「住友商事」「花王」「NEC」の3社の取り組みを紹介します。働き方改革が必要とされている社会において、実際にどのような取り組みがなされているのでしょうか。
住友商事(全社横断型WG+専門組織型)
住友商事におけるDX推進の組織編成は、全社横断型WGとDXに特化した専門組織型の2段構えです。
グループ全体でICTやデジタル技術を活用する動きが活発化していた住友商事では、2016年4月に「IoT & AIワーキンググループ」という全社横断組織を立ち上げたそうです。同グループ設立の目的は、IoTやAIなどの最新のデジタル技術を有効活用してDX推進することでした。
同社は本活動によって、グループ全体のイノベーション創出や競争力の強化を目指したとのこと。
なお、具体的な活動内容としては、
・工場の稼働状況を見える化
・物流、倉庫事業の高度化
・ホワイトカラー業務の効率化
などが挙げられます。
そして2018年4月には、同社デジタル事業本部内にDX推進の専門組織である「DXセンター」を設立しました。最新のデジタル技術を活用することで、新規ビジネスやサービスを創出するだけでなく既存事業の優位性の向上、バリューアップも実現するそうです。
さらに今後は、同社はDXセンターを中心に全国の営業部門や地域組織との連携を強化することで、さらにDX推進を加速していく動きをみせています。
花王(専門組織型)
花王では、DXを推進することを目的に「先端技術戦略室(SIT)」を2016年に立ち上げました。
当時、他社がDXをどんどん推進していく状況の中、同社では「DXを推進したいものの、プロジェクトを主導できる人材がいない……」という課題が浮上。
そこで、社内で先陣を切ってDXを牽引する組織としてSITを設立したそうです。
同社には長期間の業務で蓄積された膨大なデータがあったのですが、有効活用できていない点が課題でした。そのため、DX推進が同社にとって必須だったことは、想像に難くありません。
SITの特徴は、あくまでも従業員主体でデジタル技術を有効活用できる仕組みを目指した点です。そのため、従業員が扱いやすいITツールの選定やシステム導入をこころがける現場アプローチを主軸に置いた組織といえるでしょう。
NEC(専門組織型)
NECにおけるDX推進は、専門組織である「Digital Business Office」主導で行われています。
同社のDX推進体制ポリシーは、「出島」が不要という点です。つまり、DXを別会社や別組織に切り分けて推進しないという考えになります。
そのポリシーに則って、同社がデジタルビジネスプラットフォームユニット内に設立したDX専門組織が、「Digital Business Office」でした。同組織のミッションは、NECグループ全体のデジタルナレッジを結集することで、構想段階から運用に至るまで顧客視点のDX実現を目指すことだそうです。
また、最新のデジタル技術やITツールを率先して導入し、社内のDXを迅速に進めることも同組織の重要なミッションになります。
同組織の人材構成は、以下の通りです。
・リードコンサルト:業務ノウハウのエキスパート
・ビジネスデザイナー:デザイン思考のエキスパート
・デジタルエキスパート:IT、デジタル技術のスペシャリスト
なお、スタッフは社内外から集められた100人体制ということで、同社のDX推進に対する並々ならぬ意志が感じられます。
DXを推進するなら意志を持った組織づくりが必須
今回は、DX推進に必要な組織づくりの方法や事例などを解説しました。
DX推進組織の編成パターンは、主に以下の3種類です。
・IT部門拡張型: IT部門を機能拡張することでDXを推進する組織
・事業部門主導型:IT部門サポートの下、事業展開部門が主導でDXを推進する組織
・専門組織型:DX推進に特化した専門組織
なお、文中でも紹介したように、DX推進組織は目的や事業内容、市場動向などによって変化します。そのため、一度つくった組織に固執することなく、柔軟に体制を見直すことがポイントです。
また、DX推進で最も重要な点は、DXを実現することで達成したい目標の明確化になります。したがって、企業のあるべき姿を明確に捉え、それを「確実に実現する」という強い意志を持った組織編成が経営者に求められます。
本記事の内容を参考に、DXをスムーズに推進できる組織づくりに活かしてもらえれば幸いです。
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