DXとは?
DXとは(デジタルトランスフォーメーション)の略称です。経済産業省が発表したDXレポートの中では、次のように定義しています。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
引用:DXレポート|経済産業省
内容を端的にまとめると、単なるデジタル化ではなく、時代の変化に合わせてIT技術を選定・活用し、競争力を持った新たな製品やビジネスモデルを創出することを意味します。
具体的には、DVDの宅配サービスから動画配信サービスへと転換したNetflix、使っていない部屋や家を必要としている人に貸し出すマッチングサービスをビジネスにしたAirbnbなどが代表的なDX事例です。
中小企業にもDXは必要?
既存ビジネスからITを活用し、新しい商品やサービス、ビジネスモデルの創出を行うDX。これだけを見ると、多くの企業、特に中小企業には必要ないのではと思われるのではないでしょうか。
しかし、中小企業だからこそ取り組むべき理由も少なくありません。その中でも重要なポイントは次の3点です。
生産性の向上
中小企業にもDXが必要な理由、そのひとつの目的は生産性の向上が期待できる点にあります。
大手企業に比べ人手不足がより深刻な中小企業にとって、少ない人員で従来同様、もしくはそれ以上の利益を上げることは重要な課題であり、それを可能にする施策の一つがDXです。
具体的にはRPAなどの業務自動化ツールや、マーケティングオートメーションツールなどのITツール導入が挙げられます。これらのツール導入で業務効率化が進めば、従業員はより生産性の高い業務や新たなビジネスモデルの創出に集中できるようになり、生産性向上の可能性が高まるでしょう。
既存システムの老朽化に備える
DXレポートでは、約8割の企業で既存システムの”老朽化”が進んでいるとしています。
壊れない限りは使い慣れたシステムを使い続けるほうが良いのではないかと思われるかもしれませんが、システムの老朽化には主に3つのリスクがあります。
維持管理費用の高額化
既存システムを現在の業務に合わせカスタマイズを続けているケースが多く、その維持管理費用が高額化するリスクがあります。古い機器や部品を使っているため、メンテナンス時のリソース調達が困難になったり、障害発生時の対応コストが増えたりするためです。この結果、IT予算の多くを現在使っている機能を最低限継続利用するための維持管理など「守り」の項目に費やさなければなりません。
保守・運用の属人化
複雑なカスタマイズがなされた既存システムは、年数が経つごとに会社の中でも限られた人材しか保守・運用を行えなくなります。システム担当者が、漏れなく全てのカスタマイズ履歴をドキュメントに残しているケースは少ないので、もしその担当者が異動・退職などでいなくなれば、システムを修正した理由や動作の仕組みなどが理解できなくなり、ブラックボックス化が起こってしまうでしょう。
競合他社に優位性を持たれてしまう
既存システムがブラックボックス化すればこれまでのデータが活用できなくなります。データ活用の重要性は、コロナ禍においてますます高まる一方です。システムの更新ができないことは、データにアクセスできなくなるだけの問題ではありません。蓄積されたデータを活用・分析し、現行ビジネスの改善点発見や新規ビジネス創出のヒントを得ることがデータ収集の本質です。その機会を失うことになり、市場の変化に応じた柔軟な戦略立案も困難になってしまいます。その結果、競合他社に対し優位性を持てなくなってしまいます。
DXを推進し既存システムの刷新を行わない場合、以上のようなリスクを抱えることになってしまうのです。
2025年の崖への対策
経済産業省が「DXレポート」を公開し、日本企業に対しDXを促した最大の理由は「2025年の崖」があったからです。
「2025年の崖」とは、2025年に「基幹システムのSAP、ERPのサポート終了」「IT人材不足の拡大」「21年以上基幹システムの刷新をしていない企業が6割を超える」などさまざまな問題の発生が予測され、これらを解消しておかないと2025年以降に最大12兆円/年(2018年比約3倍)の経済損失が出る、という予測のことです。
ちなみに、SAPは2020年2月に「サポート期間を2027年まで延長する」と発表しました。ただ、それでも迅速に既存システムの刷新を進めなければ、将来的に大きな損失を生んでしまうのは明らかです。
中小企業のDXへの取り組み状況
DXを実践しないことでさまざまなリスクが生まれる可能性があるものの、多くの日本企業では思ったようにDXが進んでいません。
経済産業省が2020年に発表したDXレポート2では、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行ったDXへの取り組み状況分析の結果を紹介しています。
この結果を見ると、調査を行った企業全体の9割以上がDXにまったく未着手もしくは、散発的な実施に留まっています。
また、2021年9月、一般社団法人日本能率協会が発表した「日本企業の経営課題2021」によると、すでにDXへの取り組みを始めているかどうかとの質問で、大企業が65.6%なのに対し、中小企業はわずか27.7%でした。
さらに、取り組む予定はないと回答しているのが、大企業は0%ですが、中小企業は10.9%と1割を超えています。
これらの結果から見て、日本企業の中でも特に中小企業はDXへの取り組みが進んでいないことが分かります。
参照:
『日本企業の経営課題2021』 調査結果速報 【第3弾】|一般社団法人日本能率協会
中小企業のDX推進における課題点とは
なぜ、中小企業でDXへの取り組みが進んでいないのか。その理由はいくつか考えられますが、中でも大きいのは次の3点です。
IT人材の不足
経済産業省のDXレポートでは、2025年にIT人材不足は約43万人にまで拡大するとしています。不足するのであれば自社内で育成すればよいのですが、従来より日本企業、特に中小企業において自社にIT人材を抱える企業はほとんどないのが現状です。そのため自社のIT化はどうしてもSIerに頼らざるをえません。つまり、SIerやITベンダー以外の企業では、自社内でITスキル向上を促進する制度が導入されているケースが少なく、AI、IoTといった比較的新しい知識をインプットするのは、一部のデジタル技術に関心のある社員に限定されるのが日本企業の実状です。
これは中小企業にとって非常に大きな課題の一つといえます。
DXの重要性や必要性を認識できていない
前出の調査でDXへの取り組みを行う予定がないと回答している企業が10%以上いることからも分かるように、現時点においてもDXの重要性を認識できていない中小企業は少なくありません。
これには2つの理由が考えられます。一つは、現時点で競合に対して優位性を確保しているのでDXは必要ないとしているケース。もう一つは、単純に既存システムを刷新することがDXだと認識しているケースです。そのため、現時点で既存システムが問題なく動いていれば、まだDXは必要ないと感じてしまっているのではないでしょうか。
IT予算の確保が難しい
DXを実現させるには、既存システムの刷新や新たな商品・サービスの開発、ビジネスモデルの創出など多くのIT投資が必要です。しかし、必ず成功するかどうか分からない将来に対し、大きな予算を割ける余裕がないケースも多く、それがDX推進に二の足を踏んでしまう要因となっています。
中小企業がDX推進を成功させる4つのポイント
中小企業がさまざまな課題を解消しつつ、DX推進を成功させるにはどうすればよいのでしょう。ここでは、成功に欠かせない4つのポイントを説明します。
DX推進の戦略やゴールを明確にする
なぜDXに取り組むのか、取り組むことで何を達成させたいのか、戦略やゴール、ビジョンを明確にしましょう。
例えば、既存システムを刷新すれば部分的に業務効率化が実現するかもしれません。しかしそれはDXではありません。業務効率化をさせたうえで何をしたいのかを明確にしなければ、DXも実現はしないでしょう。
まずは、経営層を筆頭に全社的にDXの重要性を理解し、これからの自社が進むべき道をしっかりと検討しましょう。そして、その道へ進むためには何をすべきかを明確にすることが重要です。
DX推進のための組織を作る
DXは一人や二人の力で何とかなるものではありません。本格的にDXを推進するのであれば専門の組織を作る必要があります。
DXは企業の今後を決める重要な取り組みとなるため、推進組織のメンバーはできれば現在の業務と兼任ではなく専任となるようにしましょう。
経営層がリーダーシップを取り指揮する
前項でも触れたように、DX推進は企業の将来を見据えて行うもののため、経営層がリーダーシップを取り指揮をすることが欠かせません。経営層の理解なきDXは失敗してしまう可能性が高くなります。
また、経営層が先頭に立つことで、全従業員に対しDXに本気で取り組んでいる姿勢を見せることにもつながり、より社内の意識改革も進むでしょう。
実際に細かな戦略を実行するのは現場の従業員ですが、それを予算や人員の面でフォローし進めていけるようにするためにも、経営層が率先して進めることが重要です。
全社で情報共有体制を作る
DXは企業にとって非常に重要な取り組みのため、推進していくには全社が同じ方向に向かって進めていく必要があります。そこで重要となるのが綿密な情報共有体制の構築です。
リーダーシップをとる経営層と現場の従業員の間で、取り組む意識に差が出たり、方向性を見誤ってしまったりしないような工夫が欠かせません。
ただし、定例会議や個別ミーティングなどを増やして情報共有に時間をかけ過ぎてしまうと、逆に効率が悪くなる可能性もあります。グループウェアや社内チャットの活用、スタンディングミーティングの導入など、気軽に話し合える機会を多く作ることも重要です。
中小企業のDX推進成功事例
では、実際にDX推進を成功させた中小企業事例を3つ紹介します。
陣屋の事例
2009年には10億円もの負債を抱え、倒産寸前であった老舗旅館「陣屋」の事例です。同旅館が実施した主なDXは、内製のシステム導入による「全社員での情報共有」「情報の透明化」です。
同旅館では、外部からシステムを導入する予算がなかったため、たまたまエンジニア経験のあった社員を中心に内製で基幹システムとなる「陣屋コネクト」を開発。これを活用し、アルバイトも含めた全ての従業員でお客様情報を共有し、迅速かつ適切なサービス提供を実現しました。
さらに、会社としての戦略や財務状況なども同システムの中で全て公開することで、数字を共有するだけの会議を廃止。これにより効率化がさらに進みました。これらの取り組みで売上黒字化の実現に加え、このシステムを外部に販売するという新事業も生まれ、顧客事業売上の大幅アップも実現しています。
株式会社ZEN PLACEの事例
全国100店舗以上のヨガ・ピラティス専門スタジオを運営する「株式会社ZEN PLACE」の事例です。同社では、全国に多くのスタジオがあることから、それぞれのスタジオとの連絡事項だけで膨大な時間と手間がかかっていました。また、回答内容が統一されていなかったこともあり、顧客サービス品質の低下といった問題も抱えていたのです。
同社がこの課題解決として導入したのが、問い合わせ対応の自動化ツールであるチャットボットです。
問い合わせ内容をいくつかのカテゴリに分け、それぞれの回答をチャットボットで自動化。さらに、これまで曖昧だった問い合わせ対応ルールの統一を行ったことで、負荷軽減に加え、全国のお客様へのサービス提供を高い品質で届けられるようになりました。
さらに、チャットボット導入で効率化が進んだことで余力が生まれ、2022年1月から全国の大型モニターがあるスタジオで世界の著名ピラティス講師のオンラインLIVEによるレッスンという新たな事業もスタートさせています。
出典:店舗スタッフからの問い合わせ対応にかかっていた時間を約93%削減!
日東電機製作所の事例
電力、産業、コンピュータ、医療用など、さまざまな分野での開発業務を行っている「日東電機製作所」の事例です。同社ではこれまで設計部門のルーティンワークに人員を割いていて、手間とコストがかさんでしまっていました。
そこで、データを印刷しハンコを押す作業を自動化するためにRPAを導入。この作業に従事していた従業員をより生産性の高い業務に配置することで、業務効率化とともに生産性向上を実現しました。
出典:中小企業のDXは「低予算」から!メリット・成功ポイントを解説
まとめ
「DXは大企業が行うもの、中小企業の自分たちには関係ない」と思われている中小企業経営者の方は多いかもしれません。しかし、昨今は新型コロナウィルスの影響もあり、テレワークやそれに伴うペーパーレス化など働き方が大きく変革しています。中小企業だからこそ、少しでも早くDXに取り組まないと、あと数年で競争優位性を取れなくなってしまうリスクは非常に高くなっています。
もちろん簡単にできるものではありませんが、まずは経営者を含め全従業員がDXの重要性を認識し、自分たちは何をするべきかを考えることから始めてみてはいかがでしょうか。
DXを進める際、さまざまなITツールを活用することも重要になります。特に中小企業の場合におすすめしたいのが、日東電機製作所の事例でもご紹介した「RPA」です。
当社では特別なITスキルを必要としないRPAツール「ロボパットDX」を提供しています。RPAに興味を持たれた方は、ぜひこちらからお気軽にご相談ください。