RPA導入における「成功」の定義とは?
そもそも、RPAとはホワイトカラーがパソコンを使って行うルーティンワークを自動化するためのツールです。自動化する業務の内容にもよりますが、基本的にはプログラミングの知識を持っていなくても、直感的な操作で自動化の設定ができるとして、大きな注目を集めています。
ただし、導入したものの思ったような効果が出ないとして、そのまま使わなくなってしまうケースも少なくありません。その大きな理由として挙げられるのが、RPA導入における「成功」の定義が間違っているためです。
RPA導入における成功の定義、それはルーティンワークの自動化による高付加価値業務への転換、ワークライフバランスの向上が挙げられます。
高付加価値業務への転換
既存ビジネスからの脱却や新しい収入源の確保など、高付加価値業務に取り組む時間をつくり、生産性の向上や新たなビジネスの創出を狙うことは、RPA導入における成功の定義の一つです。
ワークライフバランスの向上
核家族化が進み、育児や介護などでフルタイム労働が難しく、退職せざるを得ない状況になっている社員は少なくありません。RPAによって業務時間の短縮、時短労働の導入を行い、ワークライフバランスの向上を実現するのも成功の定義の一つです。結果として、優秀な社員の確保と同時に、新たな採用、教育コストの削減にもつながります。
業務時間の短縮が成功ではなく、短縮によって空いた時間で何を実現するのかが成功の定義となります。空いた時間で後回しにしていた業務を行なったとしても、生産性向上は見込めません。場合によってはRPAではなく、アルバイトを雇用したほうが効率的で生産性向上が見込める可能性があります。
もともと、RPAは投資対効果の高い手法であり、それを前提に導入の検討を進めることが、成果を上げるために重要だといえるでしょう。
RPAの導入に適した業務とは?
RPAはすべての業務の自動化に対応するわけではありません。そのため、導入時にはRPAの得意とする作業を把握し、それに合わせた割り当てをしないと高い効果は期待できないでしょう。ここでは、RPAの導入に適した主な業務を具体的に紹介します。
大量のデータ登録業務
決まった手順で、毎日、数百、数千のデータを登録していく業務です。
例えば、全国に支店を持つ小売業が、日々支店から送られてくる売上データをExcelに登録していく業務。また、経理部で社員が提出する領収書、交通費などを財務管理システムへ登録する業務などがそれに当たります。
ミスの許されない業務
単純作業ではあるものの毎日、毎月のように発生し、なおかつミスの許されない業務です。
例えば、取引先に提出する請求書の作成、決算報告書の作成など、主に数字を扱う経理部に多い業務です。
情報収集や分析業務
さまざまな情報の収集や分析もRPAの得意とする業務です。
例えば、商品開発部が競合他社のWEBサイトを定期的に訪問し、類似商品のスペック表を収集して自社商品との比較表を作成する、マーケティング部が行なったアンケート結果をExcelでまとめてグラフ表示させるなどの業務です。
複数のシステム、ツールを連携させた業務
既存のツールやシステムを連携させて行う作業の自動化もRPAの得意業務です。
例えば、マーケティング部が顧客管理システムから自社商品を5回以上注文している顧客のメールアドレスだけを抜き出し、メーラーから新製品のお知らせメールを送信する、営業部で取引先に人事異動があった際、自社グループウェアの特定場所にその情報を書き込むと自動的に営業管理システムに同期させるなどの業務です。
ただし、RPAの種類によって連携が可能なシステム、ツールは異なるため、連携による自動化を検討している際は、導入予定のRPAと既存システム、ツールの互換性チェックは必ず行う必要があります。
部署をまたいで行う業務
複数システム、ツールを連携させた業務で、部署をまたいだ業務にもRPAが活用できます。
例えば、経理部が人事部の労務管理システムを参照し、出退勤日の確認、残業時間計算などを行い給与計算をする、営業部が取引先との商談でマーケティング部が作成したアンケート結果から必要な情報だけを抜き出し、Excelで資料作成をするなどの業務です。
休日や繁忙期に発生する業務
休日や深夜といった業務時間外や、繁忙期に集中して発生する業務についても、RPAを活用することで従業員の働き方の改善に繋がります。
例えば、通販サイトで季節商品を扱っていて、注文が集中した際の在庫管理、サイト更新業務、マーケティング部で週末に発売された商品の感想をSNSやブログを巡回して収集、一覧表にまとめるなどの業務です。
RPAの導入を成功させるためのステップ
続いて、RPA導入を成功させるためにはどういった手順で進めていけばよいのでしょう。ここでは、長時間労働の是正による社員のワークライフバランスの向上を成功と仮定し、導入ステップについてお伝えします。
現状業務手順の洗い出し
まず、現状の業務の工程表を作成し、時間短縮のボトルネックとなる業務を見極めます。そして、ボトルネックとなっている業務の中から、RPA導入が可能な業務の選定を行います。
ここで注意すべきポイントは、一つの部署だけで導入する場合であっても、自動化によって他部署に影響が出ないかどうかを必ず確認することです。
部署内だけで完了する業務であれば問題ありませんが、複数の部署にまたがる業務の場合、一部だけ自動化すると、それに関連する業務がかえって複雑になるケースもありえます。
状況によっては、自動化の手順を変える必要が生じる場合もあるため、業務全般を把握したうえで、自動化の判断を行いましょう。
RPAツールの選定
自動化する業務が決まったら、次に行うのはRPAツールの選定です。
現在、多くの企業からRPAツールが販売されており、備える機能もそれぞれ異なります。やみくもに選定してしまうと、自社の目的にそぐわないものとなってしまう可能性もあります。
そこで、RPAツール選定で失敗しないためのポイントをお伝えします。
自社の既存システム、ツールとの連携が可能か?
RPAの特徴の一つである、さまざまなシステム、ツールとの連携。しかしRPAの種類によっては、自社が所有する既存システム、ツールとの連携ができないものもあります。連携不可のRPAを選定してしまうと、自動化の効果も半減してしまうため、既存システム、ツールとの連携可否は必ず確認しましょう。
自動化したい業務内容との適性
基本的に自動化したい業務の内容により、複雑なものほどRPAの価格も高額になります。自社では必要のない機能を多く有したRPAを導入しても無駄になる可能性が高いため、自社の自動化したい業務に合ったRPAツールを選定しましょう。
導入予算を事前に明確にしておく
自分たちの望む自動化が可能なRPAだとしても、あまりにも高額なものだと費用対効果が合わなくなってしまいます。そこで、RPAを利用する人数からコストを算出したうえで、導入して得られる効果を金額換算し、マイナスにならない予算の範囲で選定を行いましょう。RPAによってはライセンス料は安価でもサポートが高額になるものがあります。ライセンス料だけでなく、サポートやバージョンアップ時の費用も確認することが大切です。
テスト導入を行う
RPAツールの選定を行ったら本格導入の前にテスト導入を行い、実際に想定した自動化がなされるかどうかの確認をします。上手く動かないようであれば設定を見直し、想定したように動くまで調整をします。
テスト導入を行い調整を繰り返してもうまく動かない場合、ツールのベンダーにサポートを依頼するなど対処が必要です。その際にベンダーからどのようなサポートを受けられるかについても、選定の際に押さえておくと良いでしょう。
テスト導入の効果検証
設定が上手くいった場合は一定期間運用のテストを続け、当初の導入目的を達成できているかを検証します。
今回の例では、実際に長時間労働の要因が取り払われたかどうかです。
思ったような効果が出ていれば、本格的に導入範囲の拡大を検討します。思ったような効果が出ない場合は、課題点を洗い出し、再設定や業務手順自体の見直しを行いましょう。
RPAの運用で注意しておきたいポイント
導入がうまくいけば、続いて運用管理の段階に入ります。RPAは自動化設定が済めばそれで終了、ではありません。運用がしっかりとできるかどうかで導入が成功するか、失敗に終わってしまうかが決まります。
そこで、RPAの運用で注意しておくべきポイントをお伝えします。
運用を現場任せにしない
運用を現場だけに任せてしまうと、自分たちが心理的、身体的負荷の大きな業務の自動化を中心に進めていくようになりがちです。そのため、投資対効果があまり考慮されず、社員の負荷が軽減されるだけで終わってしまいます。
もちろん、社員の負荷軽減は重要ではあるものの、掲げているさまざまな目標を成功させるという観点で見れば、現場だけに全てを委ねるのは、正しい選択とはいえません。
RPA導入の目的、成功イメージを全社で共有する
ここまでに何度かお伝えしているように、企業では部署をまたいだ業務も少なくありません。しかし、RPA導入の目的、成功のイメージが共有できていないと、それぞれが自分たちの部署の業務を自動化させることを中心に考えてしまいがちです。そうなれば、部署間の連携業務が後回しになり、全体としての効率化はなかなか実現しません。
そもそも、どうしてRPAを導入するのか、それによって何を実現させたいのかを全社で共有しなければ、成功にはつながらないでしょう。
上述した二つの注意点を踏まえ、RPAの運用を成功させる最大のポイントは経営層を中心としたRPA運用チームをつくり、全体を俯瞰したうえで運用を進めていくことです。
運用チーム主導で運用する効果としては、次のような点が挙げられます。
自動化を投資対効果の高い業務中心に選定できる
現場任せにすると、それぞれの部署単位で考えてしまいがちです。しかし、部署を超えた運用チーム主導にすれば、全社的に見て投資対効果の高い業務中心に自動化の実施を行えるようになります。
また、部署によって自動化をする業務、しない業務がバラバラになってしまうのを避けられるというのも運用チーム主導によるメリットです。現場の負担が大きい少ないではなく、自動化できるかどうかの観点で進めていくため、より大胆な自動化が実現し、成功に近づけます。
自動化のスピードが上がる
現場任せの自動化は、どうしても自分たちが行う業務に直接かかわるため、慎重に選択するようになってしまいます。しかし、運用チーム主導だと、全社的に業務分析を行い、スピードを重視して進めていくうえ、経営層の判断で動けるため、迅速かつ大きな改革が実現します。
RPA導入成功のカギは全社で意識を共有し、効果的な運用体制をつくること
流行っているから、競合が導入しているからといった理由でRPAを導入しても、成功の可能性は限りなくゼロに近いといえます。また、目的を持って導入したとしても、RPAの成功の定義を間違えて理解していれば、これもまた成功の可能性は少ないといえます。
今回お伝えしたように、RPA導入の成功は、単純に業務時間を短縮させたり、現場社員の負担を軽減させたりすることではありません。それは目的でしかなく、成功の定義はその先にあるルーティンワークの自動化による高付加価値業務への転換、ワークライフバランスの向上です。
運用チーム主導によるRPAの運用を行うことで、全社の業務を俯瞰し、投資対効果の高い業務を中心にスピード感を持って自動化を進められます。ただし、これは現場の声を無視するものではありません。現場の声を集約したうえで、生産性向上、業務効率化に必要なものだけを対象に自動化を進めていきます。それが結果として、収益の増加、多様な働き方の実現といった形で社員に還元されるのです。
そうした意味で、RPAの導入を検討する際には、まず、経営層を中心として運用のための体制づくりを行ったうえで、成功のイメージを全社で共有することが重要だといえるでしょう。