保険業界の業務を救うRPA
RPAは事務処理を自動化することにより業務効率化に寄与します。そのため幅広い業界で採用されていますが、その中でも保険業界はRPAの導入に対して意欲的に取り組んでいる業界の1つです。
事務処理の質の向上が取り扱う商品の価値に直結してくる保険業界では、RPAによる業務効率化がその企業の価値向上にも直結します。
保険業界の業務における課題点
商品やサービスを販売する仕事では、購入や契約した商品またはサービスの質が高ければユーザーの顧客満足度は高まります。
しかし保険の場合、実際に保険金が支払われる状況にならない限り、どれほど魅力的な保険であっても契約者は価値を感じません。そのため、保険の契約者に安心感を与えるために、保険業界はとても気を遣う必要があります。
そこで重要になってくるのがアンダーライティングと呼ばれている、保険契約の引き受けに際しておこなわれる事務処理です。
アンダーライティングには多くの人手が必要です。人手をかけた膨大な事務上のやり取りが発生することで、保険業務の労働生産性が低くなっていたのです。
RPAとは?
事務作業を自動化することで、飛躍的に労働生産性を向上させる「RPA(Robotic Process Automation)」が注目を浴びています。人が手作業で処理していた事務的な作業をRPAが自動処理することにより、作業時間の大幅な短縮が可能となります。
事務作業はさまざまな形態がありますが、RPAが主に対象にしているのはパソコンを使っておこなわれる定型化されたルーチンワークです。そのため、アンダーライティング業務とは相性が良いといえます。
保険業界でRPAを導入するメリットとは?
保険業界にはRPAを導入することで業務効率化を実現し、労働生産性を上げられる多くの定型業務が存在します。したがって、保険業界はRPAとも親和性が高い業界だといえます。
RPAを導入することで大きな効果が見込まれるアンダーライティング業務
保険業界がRPAと親和性が高い業界である最大の理由が、前述したアンダーライティングの存在です。
保険契約を引き受けるときは、契約の可否や条件を取り決める保険の審査が必要です。そこで、アンダーライティングをおこなうアンダーライターが保険加入を希望する人のリスクを評価し、加入を認めるかどうかを審査します。そして、保険加入を認めるときは加入希望者の危険度を見極め、適正な保険料を算定します。
保険加入後も保険料の入金管理があります。さらに実際に保険金を支払う段となったときには、きちんと保険の契約内容に基づいているかを精査する必要があります。
このように、アンダーライティングには多くの人の手作業による事務処理が発生します。手作業による事務処理が膨大になるとミスが発生する可能性が高くなり、そのミスをゼロに近づけるため、さらに人手をかけて何重ものチェックをおこなう必要があります。その上、それぞれの業務ごとに部署に分かれてチェックをおこなっていますので、処理をするたびに別の部署への照会などをする必要もあります。
こうした手作業による膨大な作業や部署間の事務上のやり取りなどの事務処理をRPAで自動化すれば、労働生産性を飛躍的に上げることが可能になるわけです。
特に保険代理店では、保険会社から頻繁に連絡があり、それを社内に周知するだけでも大変な作業です。保険業界の中でも、特に保険代理店こそRPAを導入するべきでしょう。
実際、RPAを活用する乗り合い代理店が増えてきています。RPAを導入する保険代理店は大手に限らず、中小の保険代理店でも積極的に導入が進められています。
保険業界でのRPA活用事例
大手生命保険会社や大手損害保険会社を中心に、RPAの導入が進んでいます。保険業界におけるRPAの活用事例をいくつか紹介します。
RPAを全社的な取り組みに広げた日本生命の事例
国内の生命保険売上高トップを誇る日本生命(日本生命保険相互会社)では、2014年12月にRPAを導入しました。RPA導入で採用された2台のロボットは、親しみを込めて「ロボ美ちゃん」と名付けられています。
同社では扱っている金融機関窓販商品の事務業務について、年間約15万件を処理していました。しかし直近4年で事務処理量が約2~3倍に急増し、人手を増やすもオフィススペースに限界が訪れていました。
そこで、もっとも作業量が増加していた、申込書の記載内容を基幹システムへ入力する作業にRPAを導入することで、ロボットによる自動化に着手したのです。
そして2017年に、バックオフィス業務でもRPAの活用を開始しました。その時点で、49業務、年間5万時間の労働時間の削減に成功しています。2018年は保険事務以外や支社への展開もスタートしており、今やRPAは全社的な取り組みとなっています。
保険業務の契約と保全業務の手続きを簡略化した第一生命の事例
大手生命保険会社である第一生命(第一生命保険)とキヤノンマーケティングジャパンは、保険業務の契約と保全(更新状況の管理)業務の手続きを簡略化できるデジタルソリューションを共同構築しています。RPAによる定型業務の自動化はもちろん、業務プロセス全体の最適化を志向した取り組みです。
このデジタルソリューションを活用した第一生命では、約1,000万人の保険契約者データと約200帳票のデジタル化を実現しました。RPAの導入後も紙の書類と同様の操作感による使い勝手で手続き時間の短縮などができたことにより、顧客はもとより社内からも高い評価を得ています。
今後もRPAによる顧客の利便性向上や紙文書の保管コストの削減で業務効率化をさらに向上させていく予定です。さらに、点検・入力対応や受付などの後続業務の効率化も図っていこうとしています。
「ゼロベースの仕事の棚卸」にRPAを活用した損保ジャパンの事例
損害保険会社大手の損保ジャパン(損害保険ジャパン)は、幅広い業務でRPAを導入しました。
同社では2017年から、生産性を向上させる全社的活動による業務見直しを行い、創出した時間を付加価値の高い創造業務に振り分ける「ゼロベースの仕事の棚卸」に取り組んでいます。
その過程では無くすことができない定型業務に対してRPAを適用しました。その結果、年間で45万時間の創出と100を超える業務の効率化を実現することができました。今後は、AIを用いたOCRとの連携も考えています。
顕在化していない低生産性の業務をあぶり出し、その業務にRPAを適用した三井住友海上の事例
自動車保険、火災保険、傷害保険などを取り扱う三井住友海上(三井住友海上火災保険)では、ITを活用した新たなビジネスモデルの構築に取り組んでいます。
これまで同社では、さまざまな部署が関わるアンダーライティングにより、全体の業務効率化を図れていませんでした。
全社のPC作業の分析をしたところ、20%の業務時間を使う作業をRPAに置き換えられることが判明したのです。そこで、導入に際して複雑なプログラミングが必要なく、比較的短時間で実装できるRPAを取り入れることにしました。RPAで顕在化していない低生産性の業務をあぶり出したことで、今後は対象業務範囲を広げた分析を進めていこうとしています。
「既存業務のデジタルシフト」の実現に向けてRPAを導入したあいおいニッセイの事例
大手損害保険会社であるあいおいニッセイ(あいおいニッセイ同和損害保険)では、「既存業務のデジタルシフト」の実現に向けた取り組みを2018年11月よりスタートしました。同社では従来から業務効率化を進めていましたが、依然として非効率な業務が残っていたことから、BPR(業務改革)を実施し業務効率化を目指してRPAを導入しました。
同社では、この取り組みにより約138万時間の従業員の余力を創出することで、2021年度にはよりクリエイティブな業務に注力できる環境の構築を目指しています。同時に、現在年間約1,200トンも使用しているコピー用紙などの紙をRPAによって大幅削減するとしています。
RPAを効果的に活用するためには?
保険業界に根付いている、複雑で細かいアンダーライティング業務に対してRPAを導入することにより、RPAを効果的に活用することができます。
スモールスタートがRPA導入成功のカギ
RPAを導入する際、まずは一部分の業務に適用し、その導入効果を測定してから他の業務に展開するようにしましょう。最初のうちは、失敗しても業務に支障が少ない作業の自動化からスタートすることが大切です。RPA導入後、安定した運用ができるようになった段階で、他の作業との連携などへ広げていくようにしましょう。
スモールスタートをして、それが成功したら全社へと運用を広げていくことが、RPAによる自動化成功のカギといえます。
定型作業が多く発生するアンダーライティング業務はRPA化に最適
アンダーライティング業務は、契約前の審査・契約成立の手続きをする「新契約」、保険契約時に申込者が申し出た年齢や職業、健康状態などから保険の引き受けが可能かを判断する「引受査定」、更新状況の管理である「保全」、保険料の入金管理をする「収納」、そして契約内容に基づいた保険金などの支払いをおこなう「保険金等支払」と非常に多岐にわたります。
定型的な事務作業が大量に発生するだけでなく、保険契約をしている顧客は膨大な数になっています。さらに業務の性格上、作業ミスや修正は許されません。
このように膨大な定型作業が発生しミスが許されない事務作業は、RPAで自動化するのにうってつけの業務です。定型化されている作業をRPAに任せることで、アンダーライティング業務に携わっていた社員は創造的業務に集中することができます。このような棲み分けをおこなうことにより、業務効率化が期待できるでしょう。
「引受査定」を自動化することで、査定業務の効率化と査定品質の均一化を実現
アンダーライティング業務の中でも「引受査定」は非常に負担がかかる業務です。保険加入の申込者から預かる申込書や告知書などの書類に対する目視チェックをしたうえでシステムチェックをおこなうなど、煩雑な業務が多くなります。
その業務効率を改善したいと考えても、システムの改修が必要となるのでITコストが負担になります。そこで、システムはそのままで改修せずに、人手だけを増やす「人海戦術」で乗り切ってしまおうとするケースもあります。結果として、営業担当者や査定業務担当者など、社内の人材が煩雑で単純な定型作業に拘束され、本来、創造的な業務に就くべき人材が活用されなくなります。
そこでRPAを導入することで、アンダーライティングスキルに依存しない、ルールに基づく査定が可能になります。さらに査定業務を効率化できるうえ、査定品質の均一化も実現します。
まとめ
本記事では、保険業界でRPAを活用するべき理由や活用事例、効果的に活用するための方法などについて説明しました。
単純な定型作業が膨大に発生するアンダーライティング業務など、保険業界はRPAで業務効率化し労働生産性を改善できる業界です。
保険業界にはアンダーライティング業務を専門におこなうアンダーライターも多数存在します。このアンダーライターを付加価値の高い業務に振り分けることで顧客サービスの向上も期待できるでしょう。
非エンジニアでも扱いやすく無料のサポート体制が手厚いRPAツールとして「ロボパットDX」があります。「ロボパットDX」であれば、ITスキルがそれほど高くない現場の従業員の方でも作業の効率化を自発的に進められるでしょう。ぜひこちら(http://fce-pat.co.jp/)から詳細をチェックしてみてください。