DXとは
「DX」とは、英語の「Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション」の略称です。日本語に直訳すると「デジタル変革」という意味になります。
ただし、DXは使われるシーンによって若干意味合いが異なるケースがあるため、注意が必要です。この記事では、DXの起源や政府によるDXの定義、そして自治体におけるDXがどのようなものなのかを解説します。
ストルターマン教授が唱えたDXの定義
DXという言葉の起源は、スウェーデンにあるウメオ大学の「エリック・ストルターマン」教授が2004年に提言した内容がはじめとされています。
ストルターマン教授が提言した内容は、以下の通りです。
IT技術の発展によって、人々の生活がよい方向に転換していくと同時に、DXが推進されデジタルとリアルが融合して大きな変革が実現される
ストルターマン教授がこの提言をした2004年は、デジタルとリアルの融合が始まったばかりの黎明期でした。あらゆるものがネットにつながったり、デジタル化したりすることによってデジタルパラダイムが起こり、我々の生活が豊かになることをこの時すでに示唆していたのです。
しかし、そのためにデジタル技術を妄信することなく、冷静かつ批判的に向き合う必要があると述べています。
この提言の信ぴょう性については、現在のGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)が展開する経済圏や、多くのIT企業の成功を見れば明らかでしょう。2004年に現在のような状況になると予想していた、ストルターマン教授の先見の明には脱帽です。
経済産業省の唱えるDXの定義
我が国は少子高齢化に突入し、労働人口が年々減少傾向にあります。そのため、日本企業の生産性を上げるために、政府は経済産業省がDX推進を励行している状況です。
経産省が掲げる「DX推進指標」の中で触れられている、DXの定義は以下のようになっています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
経産省が定義するDXは単なる業務のデジタル化だけに留まらず、会社組織やビジネス構造を変革し、企業の競争力や収益を上げるところまでをゴールに設定している点が大きな特徴です。
自治体が抱える課題
全国の自治体が共通して抱える課題は、大きく以下の3つです。
- 少子高齢化による労働人口の減少
- 多数のアナログ業務
- IT人材不足
我が国の労働人口は年々減少傾向にあり、その影響によって今後自治体におけるサービスの質低下が危惧されています。また、税収の減少や空き家問題、公共交通機関の維持など、労働力不足によって、さまざまな弊害が発生している状況です。
一方、全国の自治体には、いまだにアナログ業務が多く残っており、職員の業務負荷が重い点も課題といえるでしょう。多くの紙の書類や申請書、また対面や電話、FAXによる業務は、手続きが煩雑になるだけでなく、保管場所も必要になるなど問題は山積みです。そのため、ITツールを活用したDXによる生産性の向上が求められています。
しかし、DXを推進する必要性を感じながらも、全国の自治体にIT人材が少ないため、思うように対応が進まないことも大きな課題です。一般職員の採用も厳しくなっている中、市場ニーズの高いIT人材を自治体が採用することは非常に困難でしょう。そのため、全国の自治体においては、IT人材の育成が重点課題となっています。
自治体におけるDXとは
自治体におけるDXは、ここまで紹介したものとは若干定義が異なります。
自治体におけるDXとは、従来アナログで運用していた業務やデータをデジタル化して共有することで、さまざまな機関や企業、地域住民が有効活用して社会的な課題解決につなげる取り組みのことです。
なお、経産省が掲げる自治体DXの意義は、以下のように定義されています。
自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させるとともに、デジタル技術や AIなどの活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく
出典:総務省/自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画
さらに、経産省は自治体におけるデータの有効活用を励行しており、フォーマットの統一化や民間企業とのデータ連携の強化を提唱しています。これにより、客観的なデータを用いることで、適正な政策立案や実施を行うことが目的です。
例えば、地域住民のさまざまなデータを分析、集計することで、生活に役立つサービスを提供することができます。また、全国の市役所や区役所などは現在、新型コロナウイルスや自然災害などの対応に追われている状況で、デジタル化による業務効率化は急務です。
自治体におけるDXの具体例としては、各種行政手続きのオンライン化やマイナンバーカードの活用などが挙げられます。マイナンバーカードの普及、浸透については、政府も「個人番号カード交付事務費補助金」を設定し、力を入れています。
固定資産税や法人住民税といった行政の基幹業務を、一括管理できる仕組みを構築することが、自治体におけるDX推進の要の一つとなっています。
広がりを見せている「自治体BPR」
全国の自治体では「自治体BPR」と呼ばれる活動が活発化しています。BPRとは「Business Process Re-engineering」の略語で「業務改革」や「過程の再構成」という意味です。
自治体には先述した通り、アナログ業務がたくさん残っていることに加え、承認フローも複雑で時間がかかるため、世の中の流れに合わせて柔軟に政策が打てる体制とはいえないでしょう。そのため、業務フローの抜本的な見直しが急務な課題とされています。
自治体BPRを推進するためには、DXの実現が欠かせません。中長期的な視点を持ち、プロジェクト化したうえで取り組む必要があるでしょう。
デジタル庁の発足で自治体DXが加速
総務省は2020年の「デジタル・ガバメント実行計画」の閣議決定時に「自治体DX推進計画」を発表しました。デジタルの発展による社会変化へ柔軟に対応するために、全国の自治体がDXを推進することが基本方針です。
2021年に設置されたデジタル庁が中心となり「Gov-Cloud(ガバメントクラウド)」と呼ばれる、統一化された基幹業務システムの構築を目指しています。これにより、全国の自治体がSaaSやIaaS、PaaSといった複数のクラウドサービスの利用が可能になる見込みだそうです。
Gov-Cloudが全国の自治体に実装されれば、多くの基幹業務がWeb上で実施できるようになります。その結果、自治体ごとに独自のハードやソフトを準備する必要がなくなり、業務コストを抑制し、政策の実施や業務のスピードが速くなる効果が期待できるでしょう。
自治体DXの現状
政府が自治体DXの推進を励行してはいるものの、現状としてはあまり進んでいません。株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所が2021年12月にとったアンケートによると、自治体の約8割がDXに未着手とのことです。
これは、民間企業と比較すると非常に低い水準だそうで、自治体DXの実現は前途多難であることを伺わせるデータといえるでしょう。旧態依然とした政策の検討、承認プロセスによる弊害が、DXの推進を阻害している一つの事例ともいえるかもしれません。
参考:PRTIMES「株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所/自治体DX、8割が未着手、成熟度は民間企業の半分以下」
自治体のDXにおいて欠かせない視点
自治体のDXを推進するうえで、ICTの利用などによる住民サービス向上と全体最適化、そして組織経営という3つの視点を持つことが不可欠です。ここでは、それぞれについて解説します。
住民サービス向上の視点
自治体などの行政組織のDXと聞いて、多くの方が真っ先に思い浮かべるのは、役所の手続きや業務の効率化でしょう。しかし、自治体のDXを推進するうえで大切なポイントは、行政サービスの質が向上して人々の生活が豊かになることです。
そのため、自治体のDXは、住民サービス向上の視点を持って推進する必要があります。現在煩雑だと思う手続きがある場合は、その業務フローや手続きの必要性の是非を問い、不要なものは無くす覚悟も必要です。
「昔からやっているから……」「こういう風に手続きするのがルールなので」といった内向きの視点だけにとらわれてはいけません。広い視野を持ち、どうなれば地域住民にとって良いサービスを提供できるのかを常に検討する必要があるのです。
全体最適化の視点
前述の通り、自治体のDXは地域住民にとって便利なサービスを提供することが目的の一つです。そのため、役所や役場に寄せられる地域住民のクレームや要望を可能な限り反映する必要があります。
しかし、ここで注意しなくてはいけないのが、全体最適化の視点を忘れないことです。多くの地域住民が利用する行政サービスは個別に最適化されるべきではなく、すべての人々にとって便利なものでなくてはなりません。そのため、サービス内容を平準化し、全体最適の視点を持ってDXを推進することが重要です。
一方、ITツールやデータを実際に活用する、全国にある役所や役場のスタッフの誰もが使いこなせなければ意味がありません。自治体のDXでは、全国共通の規格やシステムの統一化を常に意識しながら推進する必要があるのです。
組織経営の視点
「住民サービス向上」と「全体最適化」の視点を持ってDXを推進する場合は、各自治体の課題解決につなげることはもちろん、全国の自治体で汎用的に応用できるようにしなくてはいけません。全国の自治体を俯瞰して、横断的にDXを推進できる組織の構築が必要となります。
また、各自治体においてDXを推進する際に、トップダウンでは現場スタッフが自発的に動けないため、うまく進まないでしょう。DX推進の目的を明確化し、現場スタッフや地域住民にとってどんなメリットがあるのかを具体的に提示することで、ようやく自分事としてとらえることができるのです。
そのために、自治体のトップがDX推進の明確なビジョンを提示し、スタッフが自発的に取り組める組織経営が必要不可欠になります。また、DXに必要なITツールを扱う知識やスキルの教育も同時に行わなくてはなりません。
自治体におけるDXのポイント
自治体でDXを推進するために、以下のポイントに留意して進めることが成功の秘訣です。
横断的な体制の構築
前述した通り、自治体におけるDX推進では、方針を自治体の施策に落とし込んでいくための横断的な体制をつくることが必要です。
自治体トップの明確な方針があり、それを実現するための施策を検討するスタッフ。そして、施策を現場レベルの運用に落とし込むスタッフや、実際に現場で業務効率化を行うスタッフ全員が一丸となって取り組まなければ、大きな成果は期待できません。
そのため、自治体内のスタッフや部署が、プロジェクトのように連携して動ける必要があるのです。くれぐれも部門最適や一つの業務だけに特化したDXにならないように注意しましょう。
デジタル人材の確保・育成
自治体におけるDX推進は、実際の変革に関わる現場の職員のリテラシー向上を図ることも重要な課題です。具体的には、ITやプログラミングなどの知識を持つデジタル人材の確保や育成が必要になってきます。
ただし、デジタル人材は一般企業からも引く手あまたの状態なので、外部から確保することはなかなか困難な状況です。場合によっては外注なども活用しながら、自治体スタッフのITリテラシーを育成する取り組みも視野に入れておくべきでしょう。
計画的な取り組み
DXは、目に見える効果が出るまでに非常に時間がかかる取り組みです。ITツールを導入して多少の業務効率化を行う程度であれば、効果を上げることも可能ですが、大幅な生産性向上や地域住民の利便性向上につながるまでは、少なくても4年~5年ほどの期間が必要だといわれています。
そのため、自治体におけるDXでは、長期的な視点を持ってDXを実現するというトップの自覚と覚悟を、組織方針として推進計画に落とし込んでいくことが重要なポイントです。すぐに効果が出ないからといってDX推進を諦めることなく、絶対に目的を達成するという強い意志を持つことが自治体のスタッフ全員に求められます。
自治体同士の連携
自治体におけるDXは、一つの地域に限定した部分最適のデジタル化になってしまうと意味がありません。国と地方自治体、都道府県、市区町村レベルの自治体同士が連携して、全国横断的にDXを実現することが最大の目的であるためです。
そのために、横断的なDX推進をマネジメントできる組織や、統一システムなどの構築が必要不可欠になります。
本当の意味で自治体のDXが実現する頃には、我々の生活が豊かなものになっていると期待できるでしょう。それを実現するためには、日本全国の自治体同士が連携し、標準化されたDXの実現が必要です。
自治体のDX事例
自治体DXの具体例として、愛媛県と東京都三鷹市の取り組みを紹介します。
愛媛県のDX事例
愛媛県は、2018年に「プロモーション戦略室」というデジタルマーケティングに特化した部署を設立するなど、早くからDX推進に取り組んでいる自治体です。
インバウンドやサイクリストの誘致、愛媛の特産品の動画による販促活動を行なったことで、大きな効果を挙げました。新型コロナウイルスの影響もあるなか、「愛媛百貨店」という販促施策で、結果前年を大きく上回る1億円以上の売り上げを記録しています。
さらに、2020年にプロモーション戦略室を「デジタル戦略室」へと改名。DX推進に特化した官民共創デジタルプラットフォーム「エールラボえひめ」をAWSで構築し、「デジタルシフト推進課」が愛媛県のDXの旗振り役となって、DX実現に向けて邁進している状況です。
東京都三鷹市のDX事例
東京都三鷹市では、2020年からDX推進を本格化するため「みらいをつくる三鷹デジタル社会ビジョン」という政策を打ち出しています。もともと三鷹市では、情報化社会に適応するべく各種デジタル事業や施策を推進していたのですが、DXを推進するための大きな軸がありませんでした。
そこで、今後DXをどのように実現していくのかというビジョンを確立することで、今やるべきことを明確化できたのです。
現在は保育所の入所手続きにRPA(人がパソコンで行う定型作業を自動化するツール)やAI、OCR(手書きやFAXの文字をテキストデータ化するツール)を活用することで、従来の40%程度という大幅な業務効率化を実現しようとしています。
また、チャットボットを導入することで、行政に関する市民のさまざまな質問に対応できるサービスの提供や、駅前に公衆Wi-Fiを設置するなど、人々の生活が豊かになる取り組みを実施している状況です。
大阪府豊中市のDX事例
大阪府豊中市は「とよなかデジタル・ガバメント宣言」を発出し、市長自らが庁内外に対してDX推進にドライブをかける意気込みを示しました。また、同市はDXを実現するための施策として「とよなかデジタル・ガバメント戦略」を策定し、デジタル技術の活用によって「暮らし・サービス」「学び・教育」「仕事・働き方」の大きく3つを変革することを決定しました。
また、DXを推進できる人材を育成するために「DXセミナー」を開催している点や、ITベンダーと包括契約を締結し、自治体の各課が抱える課題をWeb会議で相談できる「ICTよろず相談会」を実施している点が「とよなかデジタル・ガバメント戦略」の特徴です。
神奈川県平塚市のDX事例
神奈川県平塚市では、以前まで紙で発行していたプレミアム商品券の電子化を令和2年に行いました。電子化のきっかけは、商品券の運用にかかる事務経費や業務工数を削減するためだったそうです。
実際にデジタル化を実施した結果、事務経費が1億4,800万円から5,400万円に減少しただけでなく、事業規模が約8億円から約15億円と大幅に増額となりました。また、電子化したことによって、利用者の商品行動が可視化されデータ解析が可能になり、政策の検討・実施の指標として利用できるようになったそうです。
愛知県瀬戸市のDX事例
愛知県瀬戸市では、電子決裁機能付き文書管理システムの導入を推進しています。電子決裁システムの導入によって、自治体に多く残る紙を使った行政業務から脱却し、ペーパーレス化を実現することが目的です。将来的には、すべての文書をデジタル管理に移行する意向を示しています。
具体的には、ファイリングシステムの開発によって、検索時間の短縮と情報の一元管理を目指すとのこと。さらに、デジタル管理に移行することで、期限が満了した文書を自動で廃棄する効果も期待されているそうです。これらの仕組みと電子決済システムを連携し、さらなる業務効率化が実現されるでしょう。
自治体におけるDX実現は国民の幸せそのもの
自治体におけるDX推進では、「住民サービス向上」「全体最適化」「組織経営」という3つの視点を持って取り組む必要があります。
そのうえで、
- 横断的な体制の構築
- デジタル人材の確保・育成
- 計画的な取り組み
- 自治体同士の連携
というポイントに留意して進めることで、DX実現に大きく近づけることでしょう。
一つの自治体の業務効率化に留まらず、全国の自治体の生産性を向上させ、すべての人々の生活が豊かになることが、自治体におけるDX推進の究極目標といえます。
自治体DXの事例を参考に自社のDX推進を検討してみると、新しい視点が見つかるかもしれません。
なお「IT人材がいない」「職員にプログラミングを勉強してもらうには時間がかかってしまう」という悩みを抱えた自治体におすすめのITツールが、三鷹市でも活用を始めたRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。RPAはデータ入力や転記などの定型業務を自動化してくれるITツールで、自治体だけでなく多くの民間企業でも活用されています。
なかでも、RPA「ロボパットDX」は「現場が自分で自分の作業を自動化できる」というコンセプトで設計されています。
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