DXとは?
DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字を取った言葉です。2004年にスウェーデンのウメオ大学教授エリック・ストルターマンが提唱した概念です。なお、「Digital Transformation」をDXと略すのは欧米で「Trans」を「X」と省略することがあるからです。
エリック・ストルターマンが提唱した概念とは、ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でいい方向に変化させることとなります。
現代においては当たり前のような概念ですが、エリック・ストルターマンは生活の変化を提唱している点がポイントです。そもそも「Transformation(トランスフォーメーション)」は「変化」「変形」「変容」などの意味があります。
つまり、DXを言葉の意味から検討すると「デジタル化によって社会や生活が変化すること」といえるでしょう。2019年(令和元年)7月に経済産業省が発表した「DX推進指標」とそのガイダンスではDXを以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や 社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務その ものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
(引用:「DX推進指標」とそのガイダンス)
一方で情報処理推進機構(IPA)は「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」においてDXをこう定義しています。
「AI や IoT などの先端的なデジタル技術の活用を通じて、デジタル化が進む高度な将来市場においても新たな付加価値を生み出せるよう従来のビジネスや組織を変革すること」
(引用:「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」)
両者のDXの定義を参考にすると、DXは最新のデジタルツールやシステムなどを活用して企業の生産性や競争力を向上させて利益を増加することといえます。さらに、優れた商品やサービスを市場に提供することで人々の生活を豊かにする取り組みといえるでしょう。
DXは今後もさらなる展開が期待されます。その背景には以下で挙げる項目があります。
レガシーシステムからの脱却
日本企業はレガシーシステムと呼ばれる大規模かつ複雑な業務システムを利用しています。長期間による保守と改修を繰り返して肥大化した既存のシステムは、少しの補修を追加する際も影響範囲が大きく、コストや工数がかかる点が課題とされています。
政府の「DXレポート」においてもレガシーシステムが改善できないと、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があることを示しています。
この問題を「2025年の崖」と呼んでいます。2025年の崖を見越してコンサルなどがDXを促進させようとする動きも強まっており、国内の企業も積極的にDX推進に取り組んでいます。
参考:「DXレポート」
デジタル化による競争力の強化
昨今の世界市場に目を向けると、GoogleやAmazon、Facebook、Apple、Microsoftなどがデジタル市場をリードしています。それらの企業のサービスは日本国内においても日常的に利用されています。
近年ではメルカリやLINEなどの国内企業もさまざまなデジタルサービスを提供しています。企業の生産力や競争力を高めるには、業務やサービスのデジタル化は避けて通れない現状です。
これまでアナログ中心の業務やサービスを提供していた企業であっても、DXによる大きな変革が求められています。
BCP対策
BCPとは「Business Continuity Plan(事業継続計画)」の略称です。災害などの緊急事態が発生したときにシステム障害などによる損害を最小限におさえて、重要な業務の継続により早期復旧を図ることが目的となります。
日本では2011年の東日本大震災など自然災害が多発しています。また、2020年以降は新型コロナウイルス感染症の影響で、これまで通りの業務がしにくくなった企業もあります。
このような事態においてデジタル化やクラウド活用を行っていた企業は、業務復帰が早期に実現しました。テレワークやリモートワークなどの新たな働き方が一般化できたことで、DX推進による業務のデジタル化が求められているのです。
以上の内容からDXは今後も拡大が期待されるといえます。
DX推進が注目されている3つの理由
前章ではDX推進に期待がかかる背景をいくつかご紹介しました。それらに加えて、DXが推進される理由として3つの内容が挙げられます。
労働人口不足・人材不足の解消
DX推進は労働人口不足、すなわち人材不足の解消につながります。近年、日本の人口は横ばい状態が続いていますが、高齢化率は年々上昇しています。合計特殊出生率も横ばいであり、生産年齢人口の割合が目減りしている状態です。
厚生労働省の「我が国社会保障制度の構成と概況」によると、2060年の総人口が9000万人を割り込み、高齢化率が40%に届く水準になると予測されています。
生産年齢人口、つまり働く人材が減少していくことから企業の人手不足が進みます。このような人材不足はDX推進によって解決できる部分があります。
例えば、RPA(人間が行っているPC業務を自動化するソフトウェア)の活用によって、顧客対応や人事業務などを行えば残業代などのコスト削減にもつながります。RPAは定型業務を得意としているため、人間があえて行わなくてもよくなります。
国際競争力の強化
日本企業は海外企業に比べてDX推進が進んでいないといえます。一方、世界的にはICT(情報通信技術)の有効活用が進んでおり、競争優位性の実現を図っています。
国際開発研究所が作成する世界競争力年鑑によると日本の競争力総合順位は、調査対象64カ国中31位と低迷しています。順位は経済状況や政府効率性、インフラ、そしてビジネス効率性によって検討されています。
特にビジネス効率性の低迷は日本の総合順位の低下の原因といってもいいでしょう。
そのため、企業が国際的な競争力をつけるには、経営戦略にDX推進を取り込み、スムーズに施策を実施できる体制を整え、新たな価値を創造することが求められるのです。
参考:IMD「世界競争力年鑑2021」からみる日本の競争力 第1回:結果概観
企業の利益や顧客体験の向上
新型コロナウイルス感染症の影響により、顧客は企業にデジタル化を求めるようになっています。セールスフォースの「第4回 コネクテッドカスタマーの最新事情」によると88%の顧客が新型コロナウイルス対策として企業がデジタル化を加速させることを期待している点が伺えます。
さらに顧客の過半数は「企業にコロナ禍に対応した新しい製品とサービスを提供すべきだ」と回答しています。
コロナ禍において顧客が企業に対して求めることが変化しており、企業はDX推進を加速させることが競争力アップに必要となるでしょう。
働き方改革とは
「働き方改革」とは、2016年当時の安倍政権から始まった動きであり、「1億総活躍社会」を実現するために多様性のある働き方を提案して、あらゆる世代が働き続けられることを目指した取り組みです。
厚生労働省のホームページを参考にすると、働き方改革を検討した背景がわかります。
「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護の両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に面しているなかで、「投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることが課題」と明記されています。
働き方改革には「3つの柱」があります。
長時間労働の是正
労働時間に関する制度の見直しとして、時間外労働の上限が月45時間、年間360時間を原則にしました。臨時的、特別な事情がある場合であっても年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間を限度に設定するなどが労働基準法や労働安全衛生法などで定められました。
正規と非正規の格差解消
正社員のような正規雇用とそれ以外の非正規雇用の従業員の待遇や賃金格差は、長年、日本企業が抱える課題でした。リーマンショックの影響を受けた際に「派遣切り」が話題となりましたが、コロナ禍において再び起こりました。
待遇の格差では交通費の金額差や支給の有無などの不平等が企業の課題といえます。そこで働き方改革では「同一労働同一賃金」を導入しました。
同一労働同一賃金とは、関連法律の改正によって、同一企業内において正社員と非正規雇用労働者の間で基本給や賞与などのあらゆる待遇で不合理な待遇差を設けることが禁止されました。
多様な働き方の実現
長時間労働の是正、正規と非正規の格差解消により、多様な働き方の実現が可能となります。例えば、「親の介護が必要でパート勤務がしたい」という場合であっても、「パートだから正社員よりも時給換算で賃金が低くならない」ということが実現します。
そのため、パートやアルバイトでも働きやすくなります。有給休暇の取得においても格差がなく支給されれば、長期的に働くことも可能でしょう。
正社員であってもフレックス制度や在宅勤務、事情による短時間勤務制度などを整備する企業も増えています。なかには職場にキッズスペースや幼稚園を配置して、仕事と育児の両立ができる企業も存在します。
また「高度プロフェッショナル制度」により、一定の要件を満たして専門的な能力や知識を持つ労働者は、労働時間ではなく成果によって報酬が得られるようになりました。
デメリットはあるものの、短時間で効率よく報酬を得たりワークライフバランスが実現できたりする可能性があります。
以上のように3本の柱がある働き方改革ですが、DX推進とは切り離すことができません。その理由は、長時間労働の是正と多様な働き方の義務化によって、残業の大幅な削減と非正規雇用者への待遇改善が必要となるからです。
しかしながら、業務量は従前通りで、収益もそれほど大きく上がっていないという企業が全体的には多いと思います。よって、生産性の向上によって競争力を高め、収益拡大につなげられなければ、経営が成り立たなくなる可能性も充分にあり得るでしょう。
加えて、今よりも生産性が上がらない企業は、リストラや倒産などのリスクも高くなる恐れがあります。日本企業における生産性の向上は至上命題であり、働き方改革を実現せざるを得ない状況といえます。そして、それを実現する手段の1つがDX推進です。
前述の通り、企業の生産性向上において、業務やサービスのデジタル化は避けては通れない道となっています。働き方改革とDX推進は、切っても切れない関係性といえるでしょう。
働き方改革とDX推進をセットで対策するには、RPAがおすすめです。特に人材不足に悩む中小企業はRPAを活用することで、オフィス業務の効率化が図れます。
一般的にDXを進めるためには、エンジニアやプログラマーという存在が不可欠です。しかし、中小企業はエンジニアやプログラマーなどのデジタル人材の確保が難しいでしょう。
RPAは製品によっては、プログラミング知識を持たない人材でもロボットを作成できるものがあります。システム導入の場合は、業務フローを整理した上でIT部門とのコミュニケーションが必要不可欠ですが、簡単に使えるRPAであれば現場スタッフの観点で柔軟に業務自動化を進めることができるため、現場主導のDX推進が可能になります。
DX推進状況の自己診断ができる「DX推進指標」の使い方
ここまでDX推進に関してご説明してきましたが、「実際に何から取り組むのか」「自社のDX推進はどこまで進んでいるのか」などの悩みが出てくるものです。そこでおすすめしたいのが、経済産業省が公開している「DX推進指標」です。
DX推進指標とは、DXに関する取り組みの状況を自己診断できるツールです。2019年に策定されたツールであり、DX推進指標を通じてDXがどの程度成熟しているのかが確認できます。
また、成熟度合いによって取り組みや方向性が決定できます。DX推進指標は企業価値の向上だけではなく税制でも優遇される「DX認定」の取得にも役立つツールです。「DX推進指標とそのガイダンス」では、DX推進に取り組む場合の自己診断について解説されているため、活用する前に確認しておくといいでしょう。
DX推進指標では、9つのキークエスチョンと26のサブクエスチョンが用意されており、キークエスチョンはDX推進・ITシステム構築の枠組みを決めるための大項目です。サブクエスチョンはキークエスチョンに対する詳細な内容であり、経営者や関連部門が回答します。
クエスチョンに回答する際は、根拠を明確にすることがポイントです。理由は根拠を明確にすることで担当者の意識が変わり、外部のアドバイザーに依頼する際の情報共有も円滑になるからです。
DX推進指標を活用する際の手順は以下を参考にしてください。
1.「DX推進指標とそのガイダンス」を確認する
「DX推進指標とそのガイダンス」に目を通して、指標の目的や考え方などを理解します。DXに関しては経営陣や関連部署だけではなく、全社として共通認識を持つ必要があります。
2.フォーマットをもとに回答していく
「DX推進指標自己診断フォーマット」に従って回答していきます。回答する際は経営陣や関連部門を中心として議論してください。
3.DXポータルから自己診断結果を入力する
情報処理推進機構(IPA)の「DX推進ポータル」から自己診断結果を入力していきます。DX推進ポータルは、DX認定制度についての申請システムです。利用する際は「gBizID」が必要ですが必要ですので、取得しておきましょう。
4.ベンチマークを入手する
提出した自己診断結果を基にIPAが集計・作成したベンチマークが入手できます。ベンチマークは診断結果をまとめたものであり、自社とその他の企業を比較すると客観的にDX推進の成熟度がわかるでしょう。
5.成熟度を確認する
DX推進指標では自社のDXの成熟度が6段階にレベル分けされます。
- レベル0:未着手
- レベル1:一部での散発的実施
- レベル2:一部での戦略的実施
- レベル3:全社戦略に基づく部門横断的推進
- レベル4:全社戦略に基づく持続的実施
- レベル5:グローバル市場におけるデジタル企業
最終到達点としてのレベル5となり、国際競争力の向上を着眼点としています。レベル5と判断されると、グローバル市場においても生き残れるビジネスモデルを構築した企業といえるでしょう。
以上を参考にDX推進指標を活用して自社の取り組みに活かしてください。
働き方改革とDX推進の実現に向けた5つのステップ
働き方改革とDX推進を実現する際は以下でご説明する5つのステップを参考にしてください。
1.業務をデジタル化する
DX推進で最初に着手することは、業務をデジタル化することです。これまで人間がこなしていた業務をITツールなどで効率化・自動化します。具体的にはExcelへのデータ入力をRPAで自動化したり、電子承認システムで業務フローのペーパーレス化を図ったりすることができるでしょう。
また、業務プロセスのデジタル化も検討が必要です。例えば、デジタル化を進めた場合、顧客から注文が入ったとき次のようなフローで業務を進められます。まずFAXで注文書が届いたら従業員がOCR(文字認識ツール)で書類をデジタル化、その後、RPAを活用して社内システムにアップロードします。次に、電子承認システムを経由してWEB上で上長から受注を承認してもらいます。承認されると、RPAが顧客にメールを送ってくれます。
以上のように業務のなかでデジタル化できる部分を洗い出して可視化しながら、ツールなどを導入してみてください。
2.ITを活用した時間と場所を選ばない働き方を実現する
業務のデジタル化を進めていくと、テレワークの導入やフレックス制度など従業員の働き方改革も進みます。また、高度経済成長期のように仕事一筋の働き方からワークライフバランスを求めた働き方が重視されています。
近年ではテレワークが定着しており、逆にテレワークに対応していない企業は求職者から選ばれにくい状況です。DX化を進めることで、テレワークが実施できる環境や仕組みづくりが構築できます。
3.デジタル化を活かしてさらに業務の効率化を図る
デジタル化を進めていくと、導入事例による成功・失敗のデータが蓄積されます。成功した場合は何が良かったのか、失敗した場合も原因を分析することがポイントです。それらのデータがさらなる業務効率化につながるからです。
例えば、業務フローを振り返ることで非効率な作業や慣習化した作業が浮き彫りになることがあります。ときには重複作業が発見されることもあるでしょう。
そのような課題は1つの部門だけではなく、複数の部門で見つかる可能性があります。1つひとつを改善していくことで、工数削減や負担の軽減につながるのです。
4.デジタル化で得たデータを全社的に活用
部門ごとに集まったDXに関するデータを全社的に活用することも重要です。DXを推進している部門ごとに集めたデータを活用して、PDCAサイクルを回せる基盤があると全社的な業務効率化につながります。
ただし、莫大な量のデータを扱うことになるため、データサイエンティストなどを揃えた専門チームを組織してください。DXとその他の業務を兼任すると、本業に追われて業務が滞る可能性があるからです。
5.新たな価値を創出する
全社的にデータが蓄積されて活用できる段階になると、新たな価値を創造できる段階に進みます。これまでのビジネスモデルや顧客を大きく転換して新たなビジネスを創造します。
業務フローや社内の評価制度なども従来の形式にとらわれないで最適化することがポイントです。このような一連のイノベーションは、企業の収益を大きく拡大するでしょう。自社に関係する人々の生活もより豊かなものになるはずです。
以上の5つのステップを1つずつこなしていきましょう。
DX推進で働き方改革を進めた事例3選
最後にDX推進で働き方改革を進めた事例を3つご紹介します。
大手通信会社がデータ入力の自動化で月間200時間の労働時間削減
国内でも大手の通信会社では、以前から依頼書の内容を専用システムに手動入力をしており、毎月6000件近くを10人で対応していました。入力ミスや処理スピードに差が生じるなどの課題も抱えていました。
しかし、携帯電話を落とした際に届く「落とし物通知依頼書」の処理をDX化して担当者を1人にしています。これにより月間200時間を削減することを実現しました。
製造業の中小企業にて製造ラインの稼働の見える化で稼働率アップ
製造業の中小企業では製造ラインの稼働状況を見える化するために独自システムを開発しました。モニターで稼働率や停止状況の把握によって生産性の低いラインの洗い出しに成功しました。
その結果、稼働率を50%から90%まで引き上げることに成功しています。
自動注文端末とオンライン注文システムで業務の効率化をした海外企業
とある海外企業では注文にかかる顧客とスタッフの業務の効率化を図るために自動注文端末とオンライン注文システムを導入しました。人件費を大幅に削減して顧客単価の15%向上を実現しました。
以上はDX推進の一例であり、さまざまな活用事例があるため、自社に似ている企業の事例を参考にしてみてください。
まとめ
DX推進と働き方改革はセットでの対策が必要です。特に中小企業はDX人材の確保が難しいと考えられるため、RPAの導入がおすすめです。
RPAツール「ロボパッドDX」は現場目線をコンセプトに開発されているため、現場スタッフ主導のDX推進にも最適です。
導入時はもちろん、運用がスタートした後にも無料で担当者がサポートをしてくれる点も大きな特徴で、DX実現に向けた大きな助けとなるでしょう。また、フローティングライセンスも選択することができるため、一つのライセンスを複数のPCで利用することでRPA人材の育成も効率的に行うことが可能です。
RPAを活用した日本型DX推進セミナーも定期的に開催しています。本記事でロボパッドDXに興味が湧いた方は、お気軽にご相談ください。