不動産業界におけるDXとは?
近年では、不動産業界においても他業界と同じく、「DX」の重要性が高まっています。まずは、DXの基本と不動産業界におけるDXの特徴について、詳しく見ていきましょう。
DXの定義
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、デジタル技術やITツールなどを用いて革新的な業務改革を行い、継続的に収益を生み出していくための取り組みを指します。DXの導入により、新たな商品やサービスを生み出し、企業の市場競争力を強化することが可能です。
経済産業省が2019年に策定した『「「DX推進指標」とそのガイダンス』」では、DXの定義が以下のように定義されています。
- 企業が市場の変化に対応するために、デジタル技術とデータを活用する
- 顧客ニーズをもとに、製品やビジネスモデルを変革する
- 業務プロセスや企業文化を変革し、市場における優位性を確立する
参考:
2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の影響により、ビジネス環境が急激に変化しました。こうした変化に迅速かつ適切に対応するために、デジタル技術を駆使したDXが役立ちます。
「DX」と「IT化」の違い
「IT化」は、IT技術を応用したツールやシステムを導入し、業務効率化やコスト削減を図ることです。一方DXは、IT化したうえで、収益拡大につながる取り組みを継続することを指します。たとえば、前述したような企業体制の改革や、新たなビジネスモデルの創出などが該当します。
つまり、「IT化の先にDXがある」ということです。DXとIT化を混同すると、「ITシステムを導入すればDXの達成」と誤解してしまいます。DX推進のためには、もちろんIT化は必要ですが、その先を見据えることが重要です。
不動産業界でもDXの重要性が高まっている
不動産業界は、膨大な業務データを扱うにもかかわらず、これまでアナログ的な手法が一般的でした。そのため、業務効率の低さや長時間労働などが常態化しており、離職による人手不足が深刻化しています。さらに、新型コロナウイルスのまん延により、業界全体の改革の必要性が高まっています。
こうした背景があり、不動産業界の「RPA化」が進んでいます。RPAは「ロボットによるプロセスの自動化」を意味し、バックオフィス業務・ホワイトカラー業務を自動化できる業務効率化ツールです。RPAの導入で従業員の負担を軽減することで、働きやすく生産性が高い職場環境を実現できます。
不動産業界でDXが必要な理由
不動産業界でDXが必要な理由について、以下5つの観点からさらに詳しく見ていきましょう。
- アナログ手法の商習慣が常態化している
- 長時間労働による人手不足が深刻化している
- 現場業務の「属人化」を解消する必要がある
- 業務の「非対面」の重要性が増している
- 顧客ニーズの多様化に対応する必要がある
アナログ手法の商習慣が常態化している
不動産業界のDXを阻む大きな要因のひとつが、アナログ的な業務プロセスです。顧客管理・物件管理・契約業務など、多くの業務を紙媒体で行っています。また、物件内見や来客対応は対面が基本であるなど、デジタル化が難しい商習慣が常態化していました。
しかし、後述する新型コロナウイルスなどで社会情勢が大きく変化したこともあり、デジタル化が進みつつあります。総務省の「通信利用動向調査報告書」によると、2022年度時点でのテレワーク導入率は75.1%で、2019年度の25.4%から飛躍的に向上しています。
このように、不動産業界でも「脱アナログ化」の流れが加速しているため、より高度なデジタル化を実現するDXの導入が欠かせません。
長時間労働による人手不足が深刻化している
不動産業界では、アナログ手法の業務プロセスが根付いていることもあり、長時間労働が常態化している傾向にあります。パーソル総合研究所と東京大学が2018年に行った調査によると、月30時間以上の残業を行っている従業員の割合は31.8%で、全14業種のうち4番目に高い水準です。
こうした背景から、不動産業界は他業種と比べても離職率が高く、人手不足が深刻化しています。DXによる業務効率化で労働環境を改善し、「働きやすい職場」を実現することの重要性が高まっています。
参考:パーソル総合研究所×東京大学 中原淳准教授 「希望の残業学プロジェクト」 会社員6,000人を対象とした残業実態調査の結果を発表
現場業務の「属人化」を解消する必要がある
不動産業界では、多くの業務を担当者のスキルや経験に依存している傾向があります。こうしたノウハウは共有されることが少ないため、特定の担当者にしかこなせない・引き継ぎが難しいケースが生じます。こうした属人化は、人材育成や生産性向上の妨げとなるため、DXによる情報のデータ化と共有が重要です。
業務の「非対面」の重要性が増している
2020年以降の新型コロナ感染症の拡大で、「非対面」業務の重要性が高まっています。各業界がリモートワークを導入し、対面業務をオンライン会議に置き換えるなど、デジタル化の流れが加速しています。前述したように、不動産業界でもリモートワークの導入が進んでいるため、データ収集・共有などの観点からもDXの推進が欠かせません。
顧客ニーズの多様化に対応する必要がある
近年では、顧客の行動やニーズが多様化しているため、臨機応変な対応が求められています。たとえば、不動産物件を選ぶときに店舗ではなくインターネットを利用する、新築物件より中古物件やリノベーションの需要が高まっているなどです。そのため、従来の手法にとらわれていては、業界の流れから取り残されてしまう可能性があります。
不動産DXで得られるメリット
不動産DXを取り入れることで、以下5つのメリットが得られます。
- 業務効率化を図れる
- 労働環境を改善できる
- 人手不足を解消できる
- コストを削減できる
- 顧客ニーズを満たせる
業務効率化を図れる
ITツールの導入により、ルーティンワークの自動化やヒューマンエラーの防止ができ、業務効率化を図れます。また、紙媒体の資料作成・共有などのアナログ作業をデジタル化すると、部署間・社内外での情報共有が容易になるので、データ関連の作業工数を大幅に減らせます。結果的に、人的リソースを多業務に有効活用しやすくなり、生産性の向上も可能です。
労働環境を改善できる
デジタル技術の活用により、手作業や単純作業を自動化できるため、作業工数を削減できます。これは長時間労働の改善につながり、離職率や人手不足の解消にもつながるでしょう。現在では、若年層は就職先に「働きやすい環境」を求めていることが多いため、労働環境の改善は人材獲得にも重要です。
人手不足を解消できる
これまで、物件査定など高度なスキルを要する業務は、限られたベテラン社員しか対応できませんでした。しかし、こうした業務にITツールを導入すると、若手社員でも対応できます。経験やスキルによる業務の偏りを改善することで、業務内容の統一と人材の有効活用が可能です。たとえば、ベテラン社員のリソースを人材育成に配分すれば、将来的な業務レベルの底上げも期待できるでしょう。
コストを削減できる
IT技術による単純作業の自動化は、人件費の削減につながります。また、大量の資料作成をデジタル化することで、紙・インク・保管スペースなどのコストも削減できます。DXは業務効率化とコスト削減を両立できるので、経営改善にも理想的な手法だといえるでしょう。
顧客ニーズを満たせる
顧客ニーズを満たすことで、新規顧客を獲得しやすくなり、既存顧客の満足度も高まります。前述したように、現在は顧客の行動とニーズが変化・多様化しているため、情報を活用したスピーディーな対応が欠かせません。
DXを推進することで、データ収集と分析により顧客ニーズを分析でき、時代の流れに合わせたビジネスモデルや新たな価値を生み出しやすくなります。これは競合他社との差別化にもつながり、業界内でのポジション確立にも役立つでしょう。
不動産業におけるDXの成功事例
実際に不動産業界にDXを導入し、成功を収めた4つの企業の事例をご紹介します。
- 三井不動産
- 東急不動産
- 野村不動産
- GA technologies
三井不動産
「三井不動産」は、自社のDX推進事例をもとに「DX白書2022」を発表するなど、不動産DXをリードしている企業です。同社は、AIカメラ「OPTiM AI Camera」を活用したオンライン内見を導入するなど、顧客ニーズを満たす先進的なサービスをDX推進で提供しています。
また、書類や手続きの電子化や、会計システムのクラウド化などにより、既存業務の35%を削減できました。新型コロナウイルスの感染拡大時は、テレワーク率9割を達成するなど、顧客のみならず従業員の満足度を高めることにも成功しています。
参考:DX白書2022
東急不動産
「東急不動産ホールディングス」は、「2022DXレポート」を発表するなど、自社のDX推進事例を積極的に共有していることでも有名です。同社はデジタル技術の活用により、さまざまな業務を自動化・省力化しています。データ入力・転記・共有などをシステム上で行うことで、定型業務の大幅な削減を可能としました。
また、オンラインとオフラインを融合させ、シームレスな体験の創出にもチャレンジしています。このように、既存業務を効率化して新たな付加価値を生み出す取り組みは、まさにDX推進のモデルケースだといえるでしょう。
参考:2022DXレポート
野村不動産パートナーズ株式会社
不動産管理事業を展開する「野村不動産パートナーズ株式会社」の事例です。同社は、約11,000戸の賃貸マンションを管理していることもあり、業務効率に課題を抱えていました。そこで、ルーティンワークを自動化するために、RPAツールを導入しました。
RPAツールで自動化した作業は、メールの自動印刷やExcelデータの転記などです。Excelデータの転記ロボットは特に効果的で、これまで7.5時間かかっていた作業を2.5時間で行えるなど、業務負担の大幅な軽減に成功しています。結果的に、人為的ミスの予防にもつながり、全体的な生産性も向上しました。
野村不動産の不動産DX導入事例については、以下の記事で詳しく解説しているのでご参照ください。
野村不動産パートナーズがロボパットを浸透させた5つのポイント
GA technologies
「GA technologies」は、これまでテクノロジーを駆使した不動産ビジネスを展開し続けてきました。具体的には、資料作成・共有のデジタル化や、AI・RPAなどによる業務プロセスの自動化などです。ローン申し込みや審査のオンライン化、非対面での不動産契約の実現など、アナログ手法が常態化していた業務プロセスの革新に成功しました。
優れた顧客体験を提供し、顧客・従業員双方の満足度を高めるなど、業界内での優位性を確立していることが、同社のDX推進事例の特徴だといえるでしょう。実際に、同社は「デジタルトランスフォーメーション銘柄2022」に選定されており、業界のDX推進をリードする存在です。
参考:「デジタルトランスフォーメーション銘柄2022」に選定
不動産業界でDXを推進するためのポイント
不動産業界でDXを推進するために重要な、以下5つのポイントを解説します。
- DXを推進する目的を明確化する
- DXを推進するための組織体制を作る
- DXに必要な人材確保と育成を行う
- DXに欠かせない各種システムを導入する
- 「不動産テック」に関する情報に精通する
DXを推進する目的を明確化する
DX推進を成功させるためには、明確な目的の設定が必要です。前述したように、DXはIT化とは異なり、単に「デジタル技術を活用すれば良い」というものではありません。DXはトレンド化していますが、「他社が導入しているから」などの表面的な理由で進めると、失敗に終わる可能性が高まります。
なぜなら、DX推進は自社の「課題」や「ビジョン」に合わせて進める必要があるからです。現状を見極めて、「どこに問題があるか」「顧客にどんな価値を提供したいか」など、企業体制やビジネスモデルの変革を踏まえた目的意識が重要です。
DXを推進するための組織体制を作る
DX推進は、いわば企業の将来を左右するほどの重大な取り組みです。そのため、一部の社員だけが推進してもうまくいきません。DXを成功させるためには、経営陣が率先してDX推進のための組織体制を構築することが重要です。具体的には、以下3種類の人員をバランス良く配置した体制を目指すといいでしょう。
- 経営者
- IT部門
- 業務部門
重要なポイントは、DXに長けたIT人材だけではなく、現場の担当者もメンバーに加えることです。ITシステムを実際に扱うのは実務担当者であることが多く、現場を無視したDX推進派できないからです。こうした指針については、経済産業省の「IPA DX白書2021」で詳しく記載されています。
参考:IPA DX白書2021
DXに必要な人材確保と育成を行う
DX推進を成功させるためには、デジタル技術やシステムの知識・スキルがある人材が欠かせません。知識・ノウハウが不足したDXは失敗するリスクが高いです。
しかし、多くの企業が「人的リソースの確保」に課題を抱えており、DX人材の確保は容易ではありません。社内リソースで対応できない場合は、外部パートナーに依頼することを検討してみましょう。
DXに欠かせない各種システムを導入する
DXはIT化の先にあるので、各種システムの導入が欠かせません。自社に課題と目的に合うシステムを選定し、運用体制を整えてから導入しましょう。たとえば、既存業務のルーティンワークを自動化したいのであれば、RPAシステムが効果的です。ITスキルがなくても扱える製品を選べば、現場の担当者がすぐ使いこなせるので社内に浸透しやすいでしょう。
「不動産テック」に関する情報に精通する
不動産DXと密接な関係があるのが、不動産業務にIT技術を取り入れる「不動産テック」です。前述した不動産DXの成功事例で触れた「オンライン内見」は、不動産テックの代表例だといえるでしょう。
2018年には、アメリカのスタートアップ企業が、3Dプリンターを活用した住宅プロトタイプの制作に成功しました。こうした技術革新により、新たな価値の創出による生産性向上はもちろん、業界全体の活性化にもつながることが期待されています。
まとめ
不動産業界は、これまでアナログ手法の業務プロセスが常態化していました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などもあり、テレワークの導入などデジタル化が進みつつあります。顧客の行動やニーズが多様化・複雑化する現代において、DX推進による情報活用とビジネスモデルの改革は、今後市場において優位性を獲得するために欠かせません。
しかし、「どこから不動産DXに手を付けるべきかわからない」こともあるでしょう。不動産DXの第一歩として、定型業務を自動化するRPAツールがおすすめです。なかでも「ロボパット」は、ITスキルがなくても使いやすい「現場主義」のデザインになっており、不動産業界での導入事例も豊富です。
DX推進でお悩みの方や、RPAツールに興味がある方は、ぜひこちらからご相談ください。貴社の課題と目的に合うソリューションを提供させていただきます。