一般的なDXとは?
DXとは「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」の略語で、日本語では「デジタルへの変換」「デジタル化」などと訳されます。「DT」ではなく「DX」と略す理由は、欧米では「Trans」を「X」と省略する習慣があるためです。
一般的にDXは、最新のIT技術やソリューションを活用することによって、自社の商品やサービス、業務フローなどをデジタル化し、ビジネスモデルの転換を図ることだといわれています。
経済産業省が定義するDXとは?
経済産業省(以下、経産省)は「デジタルガバナンス・コード2.0」において、DXを以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
つまり、DXはサービスや業務の単純にデジタル化するだけの活動ではなく、ビジネスモデルを変革し、新たな価値を創出する活動だといえるでしょう。例えば、AppleのiPhoneやAmazonによるECサイト、Uberのシェリングエコノミーなどが、DXの代表的な事例です。
DXが必要な理由
経産省は、日本企業にDX推進を励行していることもあり、多くの企業がDXに取り組んでいます。なぜ、日本企業がDXを推進しなくてはいけないのでしょうか。ここでは、日本企業がDX推進を行うべき理由について解説します。
経済産業省が「DXレポート」にて提示した2025年の崖
出典:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
2025年の崖とは、経産省が2018年に発表したDXレポートの中で行った、日本企業がDXを推進しなかった場合、年間で最大12兆円の経済的損失を被る可能性があるという提言です。日本企業の多くは、複雑化・巨大化したレガシーシステムに依存しており、市場の変化に柔軟に対応できないため、DXの推進によって新たなシステムの構築を行う必要があると提言されています。非常にショッキングな内容だったため、多くの企業がDX推進の必要性を感じるきっかけとなりました。
参考:DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~
ビジネス環境や市場の変化に対応するため
近年、日本のGDPは横ばい状態です。一方、欧米はGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)を中心とするIT企業の躍進によって、大きな経済成長を遂げるとともに、世界中の人々の生活をより便利なものへと変革しました。日本企業がグローバル市場で勝ち抜くためには、DXを推進することによって、競争力を高めることが必須です。DXを実現できない企業は、変化のスピードが速く、多様化した市場ニーズに対応できないでしょう。
既存業務のデジタル化やITツール導入対応
日本企業の多くが依存するレガシーシステムは、長期間にわたって、改修や追加開発を行い続けたものです。全社的に利用されることも多く、影響範囲が大きいため、ちょっとした改修を行う場合においても、多くの費用や工数が必要な点が課題といえます。したがって日本企業には、DX推進によって既存のレガシーシステムから脱却し、改修・追加開発が容易に行える新たなシステムの構築が求められる状況です。
2027年 基盤システムのSAPサポート終了
日本企業の多くは、SAP ERPと呼ばれる統合基幹業務システムを活用し、自社データを管理しています。しかし、SAPの保守期間は2027年に終了することが発表されたため、導入企業は自社システムを改修するか、最新版の「S/4 HANA」システムへの移行が必要です。ただし、長期間にわたってメンテナンスと改修を繰り返してきたSAPシステムからの脱却は容易ではありません。そのため、日本企業はDXを推進し、新しいシステムへ移行できる体制を早期に構築する必要があります。
なお、DXに取り組むべき理由や成功するために必要なポイントについては、以下記事の内容もあわせてご確認ください。
【2022年版】中小企業もDX推進は必要?重要性や成功のポイントを解説
DX推進は必要?取り組むメリットや課題、成功に向けたポイントを解説
経済産業省が定めるDX推進とは?3つのメリット
経産省は日本企業に向け、実施すべき事項をまとめたデジタルガバナンス・コードと呼ばれる文書を活用して、DX推進を励行しています。経産省は、デジタルガバナンス・コードに沿って日本企業を以下3つにカテゴライズし、それぞれに適したDX推進施策を提示している状況です。
出典:経済産業省/産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)
- これからDXに取り組む企業
- DX認定企業
- 先進企業
DXを実現できれば、企業は多くのメリットが得られます。ここでは、DX推進によって得られるメリットを3つ紹介します。
参考:経済産業省/産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)
生産性の向上
DXを推進することによって、企業は生産性の向上を実現できます。AIやRPA(ソフトウェアロボットが人手による定型作業を自動化するソリューション)、OCR(手書きの文字などをデジタル化できるソリューション)といったデジタルソリューションを導入して、既存の業務フローを改善することによって、作業の効率化や自動化を実現することが可能なためです。
従業員の負荷が下がることにより、残業の削減やこれまで取り組めなかった業務に取り組めるようになるなど、DXを推進する企業は多くのメリットが得られるでしょう。業務のデジタル化の先にあるサービスやビジネスモデルの革新を行うためのリソースをねん出するためにも、DX推進は欠かせません。
BCP実施によるリスク回避
DXを推進することによって、BCPの充実にもつながります。BCPとは「Business Continuity Plan」の略語で、事業継続計画という意味です。DX推進によって、業務をクラウド化・ペーパーレス化したり、テレワークなどオフィス外での業務を実施可能にしたりすることで、災害時などにおいても事業を再開・継続しやすくなります。
例えば、2020年に新型コロナウイルスが流行した際には、スムーズにテレワークへ移行できた企業とそうでない企業の間に、大きな生産性の違いが生じたことは記憶に新しいところでしょう。また、デジタル化が遅れた飲食店においては、キャッシュレス決済やテイクアウト・ソリューションの導入が遅れ、収益に大きなダメージを負いました。したがって、企業のBCPを充実させるためにも、DX推進は必須だといえるでしょう。
レガシーシステムのブラックボックス化回避
前述した「2025年の崖」問題の原因となる、レガシーシステムのリスク回避につながる点も、DXを推進するメリットです。レガシーシステムから新しいシステムへ移行することによって、新規機能の追加や改修などが迅速に行えるようになるため、市場の変化に柔軟、かつ速やかに対応できるようになります。
また、レガシーシステムは業務がブラックボックス化しやすく、担当者が不在になると業務を継続したり、障害発生時に対応できなくなったりする可能性が高いです。DXを推進して、業務フローを可視化し最適化することにより、全てのスタッフが業務に対応しやすくなるため、業務の属人化を回避できるでしょう。
DX推進ガイドラインとは?
「DX レポート」によって提言された「2025年の崖」問題を回避するためには、DXの実現およびITシステムの革新が必須です。そのため経産省は、日本企業の経営者や株主がDXを推進する際、拠り所とするチェックシートのような役割を果たす「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」(DX 推進ガイドライン)を策定しました。
DX推進ガイドラインは、大きく以下2つに分類されます。
- DX推進に向けた経営のあり方・仕組み
- DXの基盤となるITシステムの構築
また、それぞれのガイドラインを、定性指標(数字では評価できない指標)と定量指標(数字やデータで判断できる指標)で確認できることも特徴です。ここでは、それぞれの指標の内容について確認しておきましょう。
DX推進に向けた経営のあり方・仕組み
DX推進に向けた経営の在り方・仕組みに関するガイドラインは質問形式となっており、自社の状況に照らし合わせて確認していきます。「DX 推進の枠組み(定性指標)」のガイドラインは以下の通りです。
指標の名称 |
質問の概要 |
ビジョンの共有 |
・データとデジタル技術を活用し、変化に迅速な対応を行い、創出価値について社内外で共有できているか? ・将来の危機感とビジョン実現の必要性の共有ができているか? |
経営トップのコミットメント |
・ビジネスモデルや業務フロー、企業文化などを変革するために、経営トップが適切なリソース配分の実施や、DXを推進するための体制を明文化できているか? |
マインドセット、企業文化 |
・迅速、かつ継続的にチャレンジができる仕組みや体制を構築できているか? ・評価体制の最適化も行えているか? |
推進・サポート体制 |
・DXを推進する専任の部署を準備し、役割分担や権限の明確化ができているか? ・自社のみでなく、外部リソースの活用も視野に入れているか? |
人材育成・確保 |
・DX推進に必要な人材の育成・確保ができているか? ・現場における業務のデジタル化に関する要件を明確化し、実現できる人材の育成・確保の目途が立っているか? |
事業への落とし込み |
・DXによって実現したいビジョンを社内に共有し、経営者自らが強い意志を持ち、率先して取り組んでいるか? |
一方「DX 推進の取組状況(定量指標)」については、具体的なマイルストーンを設置し、以下2点のガイドラインに沿って進めることが望ましいでしょう。
- DX による競争力強化の到達度合い:経営状況の変化を、DX推進前後で比較
- DX の取組状況:DX推進で実施する施策の進捗状況を、定期的に確認
DXを実現する上で基盤となる IT システムの構築
DXの基盤となるITシステムの構築に関するガイドラインも、質問形式になっています。IT システム構築の枠組み(定性指標)の各ガイドラインと概要は、以下の通りです。
ビジョン実現の基盤としての IT システムの構築 |
・DXを実現するために、既存のITシステムをどのように改修する必要があるのか明確にできているか?(「ITシステムに求められる要素:データ活用、スピード・アジリティ(機敏さ)、全社最適」「IT 資産の分析・評価」「IT資産の仕分けとプランニング:競争領域の特定、非競争領域の標準化・共通化、ロードマップ」という大きく3つの視点で、それぞれ確認) |
ガバナンス・体制 |
DXによって実現したいビジョンに必要なIT投資において、技術的な実現性を担保しつつ長期的な目線で開発を行えるよう、価値創出につながる領域へ十分なリソース配分ができているか? |
また、IT システム構築の取組状況(定量指標)については、予算、人材、データ、スピード・アジリティの視点をもって、施策の進捗や結果を定期的に確認することが必要です。
なお、DXガイドラインについては、以下記事の内容もあわせてご確認ください。
まとめ
経済産業省が定めるDX推進を行うメリットは、以下3点です。
- 生産性の向上
- BCPの充実
- レガシーシステムのリスク回避
また、日本企業がDX推進を実施するときの拠り所として、DXガイドラインが定められています。
DX推進ガイドラインは、大きく以下2つに分類されます。
- DX推進に向けた経営のあり方・仕組み
- DXの基盤となるITシステムの構築
経営者や株主は、DXガイドラインを活用し、自社のDX推進状況を定期的に確認することによって、着実にビジョンに実現に近づけることでしょう。また、経産省のDX施策は「これからDXに取り組む企業」「DX認定企業」「先進企業」によって、それぞれ最適なものが提示されているため、自社にあったものを選択することも大切です。
本記事の内容が、DX推進を行う一助になれば何よりです。