DXが進まないことで何が起こる?
DXに取り組んでいない企業は、近い将来起こるデジタル競争社会で敗者になるといわれています。総務省の発表した「令和3年情報通信白書」によると、2021年時点でDXに取り組んでいる企業は情報通信や大企業を除けば半分にも達していません。
出典:総務省|令和3年版 情報通信白書|我が国におけるデジタル化の取組状況
デジタル競争社会で負けるとは、具体的に説明すると以下の事柄が挙げられます。
- 老朽化したシステムの保守・運用コストが経営の足を引っ張る
- 顧客ニーズのスピーディーな変化に対応できない
- 使用システムのサポート終了等によりセキュリティホール(システムの欠陥や脆弱性)が生まれる
- IT人材の引退によって既存システムの改修が困難になる
また経済産業省によると、DX未実施の企業がもたらす経済的損失は2025年以降で年間12兆円に及ぶ可能性があると述べています。2025年時点でDXに取り組まない企業を待ち受ける未来を「2025年の崖」と呼び、近い将来に競争力を失うといわれています。
出典:DXレポート ~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~
日本企業におけるDX推進の課題
本章では、日本企業がDX推進で抱える課題について解説します。
企業のDX推進を妨げる要因は、主に以下の7点です。
- 経営陣の理解不足
- DX推進を前提とした経営戦略の欠如
- IT投資の難航
- DX人材の不足
- 部門間連携の不足
- ベンダー企業への依存
- システムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化
DX未実施の企業には、DX自体に必要性を感じていないケースと、DXしたくてもできないケース、またはその両方に当てはまる場合が存在します。
経営陣の理解不足
経営者、またステークホルダー(利害関係者)のITに対する関心が低いと、企業がDX推進に経営の舵を切れません。この課題は経営陣の現状維持思考が主な原因として挙げられます。経営者は、現状の経営がうまくいっているとビジネスモデルや企業風土の改革に対してリスクを感じるものです。
DXは全社的に取り組み、企業の全体構造をデジタル競争社会に適応させるものです。そのため、成功には経営ビジョンや戦略の策定、リーダーシップの発揮など経営者が積極的に取り組む姿勢が欠かせません。
DX推進を前提とした経営戦略の欠如
デジタル技術のビジネス転換に必要性は感じているものの、具体的な施策に落とし込めるだけのビジョンや経営戦略が欠如しているのも大きな課題です。
この場合、多くはDXの概念や本質を十分理解していないのが原因として挙げられます。DXという言葉を単なる流行のひとつやデジタル化の一部と勘違いしている経営陣は少なくありません。
IT投資の難航
日本は諸外国に比べIT投資に対して消極的です。事実、日本企業のIT投資は、およそ8割以上が現行システムの保守運用に割かれています。そのため、新たなデータ基盤や基幹システムの開発に資金が回せないのです。このような陳腐化したシステムを「技術的負債」と呼びます。
前述のとおり総務省の「令和3年情報通信白書」が実施した調査によれば、全企業の中でもIT投資に対して十分な資金を投じているのは情報通信や大企業と呼ばれる分野だけです。
参考:総務省|令和3年版 情報通信白書|ICT投資の低迷、総務省|令和3年版 情報通信白書|我が国におけるデジタル化の取組状況
DX人材の不足
日本はDX推進を担うIT人材が不足しています。総務省の調査においてもDXの課題において「人材不足」がダントツの1位となっています。
DX推進にはプロジェクトを管理・企画するプロジェクトマネージャーやITシステムの開発に精通したエンジニアなど、多様なスキルを持った人材が必要です。また、ITスキル以外にも自社のビジネスモデルに対して深い理解のある人材も欠かせません。
出典:総務省|令和4年版 情報通信白書|デジタル・トランスフォーメーション(DX)
部門間連携の不足
DXは各部門との連携が不可欠です。しかし、企業の中には各部門が協調領域を築けずに独立した体制でいるところも少なくありません。部門間の連携不足がもたらすデメリットは下記のとおりです。
- データを利活用したビジネスモデルが構築できない
- トレンドの変化に迅速に対応できない
- 部門間で業務スピードにギャップが生じる
例えばマーケティング、営業サイドがDXによって多くの新規案件を獲得したとしても、その傘下である制作サイドまでDXの影響が波及しないと、業務スピードが追いつけません。部分的で中途半端なDXはかえって組織体制を悪化させてしまうのです。
ベンダー企業への依存
日本企業はITシステムの要件定義、開発、保守・運用までを外部のベンダー企業に丸投げするケースが多く見られます。外部への委託は決して悪いことではありませんが、依存度が高いと自社にシステム開発のノウハウが残りません。
結果として自社内のITリテラシーが上がらないため、DXの概念が社内に浸透せず、便利なITツールを導入しただけに終わってしまいます。
システムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化
DX推進を妨げる重大な課題に「レガシーシステム」の存在が挙げられます。レガシーシステムとは、現代のテクノロジーに追いつけないほど非効率な旧バージョンのシステムのことです。最新システムやツール群と互換性がなく性能も劣るため、業務の足枷となってしまうケースがあります。
例えば企業で使っている基幹システムが最新バージョンのOSに非対応なため、旧バージョンのOSのまま使い続けているケースがこれに当たります。
また、システムの全容が管理者でも把握できないほど肥大、複雑化することを「ブラックボックス化」と呼びます。改修には多大な時間とコストを要するため、ブラックボックス化したシステムをそのまま使っている企業も少なくありません。
両者を合わせてレガシーシステムのブラックボックス化と呼び、DX推進の大きなハードルとなっています。
DX推進の課題を解決するには?
前章のようなDXの課題を解決するには、以下の取り組みを実施するのが効果的です。
- 経営陣による積極的なコミット
- ビジョンや経営戦略の明確化と社内認知
- 攻めのIT投資
- DX人材の採用・育成
- システムの刷新
それぞれ詳しく見ていきましょう。
経営陣による積極的なコミット
裁量権のある経営陣が動かないと、DX推進は始まりません。全社的に取り組む施策なので、経営陣がまずはDXの概念や重要性について理解しましょう。
また、DX事業をIT部門やベンダー企業に丸投げするのではなく、自らが率先してDXに取り組んでいく姿勢が必要です。具体的には以下の取り組みを実施しましょう。
- 経済産業省が公表する「DX推進指標とそのガイダンス」「DXレポート」など、DX関連の資料を読みDXの本質を理解する
- DXによって自社が解決する課題や新たに創り出すビジネスモデルのアイデアをビジョンに据える
ビジョンや経営戦略の明確化と社内認知
DX推進を組織単位でおこなうには、DX実現のビジョンや具体的な経営戦略を明確化し、さらにそれを社内外に周知させなくてはなりません。経営陣による一方的なDXの実施は現場サイドに混乱を招くだけでなく、一部社員から反発意見が出ることも懸念されます。
具体的なビジョンや経営戦略が見えないという方は、以下の取り組みが有効です。
- 従業員に対するDX意識調査の実施
- 監査部門など第三者目線での社内調査
- CIO・CTOなど各部門の責任者とディスカッション
- 経済産業省による「DX推進指標のそのガイダンス」「DXレポート」の活用
ビジョンや経営戦略は、決して経営者のみで作り上げるものではありません。社員と協力しながらまとめ上げましょう。
攻めのIT投資
攻めのIT投資とは、具体的にいうと基幹システムの開発やIT人材の育成・確保を意味します。DX推進ではIT分野の予算配分を見直し、攻めのIT投資に対して資金を配分しなければなりません。
ただ、組織全体に及ぶ規模の施策や基幹システムの刷新は、大きなコストが必要です。このとき「既存システムの運用コストで予算が精一杯」「IT人材を大量採用する時間や資金に余裕がない」という企業もあるでしょう。
その場合は資金繰りではなく業務効率の向上による時間節約効果や、既存社員の教育制度に注目します。直接的な資金獲得には繋がりませんが、間接的なコスト削減には有効です。
具体的な対策の例として以下の取り組みが挙げられます。
- RPA(事業プロセス自動化技術)やIoT(モノに通信機能を搭載する技術)による単純業務の自動化
- ITリテラシー向上を目的とした研修制度の実施
デジタル技術やアイデアを活用し、攻めのIT投資に回せる資金を捻出しましょう。
DX人材の採用・育成
DX推進においては、基幹システムを構築するIT分野に精通した人材が欠かせません。少なくともDXを内製で実現する場合は以下の人材が必要です。
- プロジェクトマネージャー/ビジネスプロデューサー
- ビジネスデザイナー
- UXデザイナー
- データサイエンティスト
- アーキテクト
- エンジニア/プログラマー
ただ、上記のような人材を揃えるにはコストと時間を要します。リソースに余裕がない場合は、ベンダー企業やDXソリューションサービスに委託する方法と、人材募集と同時に既存社員を育成する方法が効果的です。
また、IT人材はある程度確保していても、日頃の業務をこなすだけで精一杯というケースもあります。人材の時間確保が課題ならRPAなどITツールの導入で業務を効率化すると、DX事業のよりコアな取り組みに人員を割けるでしょう。
システムの刷新
基幹システムやデータ基盤の刷新はDXにおいて欠かせないプロセスです。ただ、旧型のシステムと似た構造設計では、ブラックボックス化やシステムの陳腐化が再び発生します。
DXでは以下のような要件を満たすシステムを構築しましょう。
- ビジネスモデルの変化に対応できる柔軟性・互換性
- 複雑化・陳腐化しない構造設計
- 部門横断的な連携が取れるプラットフォーム
トレンドの変化が早いデジタル社会では、ビジネスモデルにもスピード感のある対応が求められます。数十年後でも使える基幹システムの構築を目指しましょう。
DX推進の成功事例
DXは概念を指す言葉であるため、具体的な正解は企業によって異なります。正解の見えづらいDXを実現するには、成功事例から要因を吸収する方法が効果的です。本章では、DX推進で成功した企業の事例を2つご紹介します。
サッポロビール株式会社の事例
大手ビールメーカーであるサッポロビール株式会社は、2022年3月にDX推進戦略を世間に発表しました。同社は「全社員DX人財化」の方針を掲げ、全従業員のDX・ITリテラシーの向上を目的とした育成プログラムに取り組んでいます。
本事例の特徴は、3ステップに分けたDX人財の教育プログラムです。
ステップ1は「全社員ステップ」。全社員を対象とした6時間のeラーニング講座を実施し、DXやITリテラシーの向上をはかります。
ステップ2は「サポーターステップ」です。企業内で公募を実施し、応募者に対してより専門的な領域のeラーニング講座を合計30時間実施。DX推進ができる人財を育成します。
ステップ3は「リーダーステップ」。通常業務をこなしながら約20日間かけて、DX推進に必要なスキルを習得する研修を実施します。
このようにサッポロビール株式会社の事例では、段階的な教育プログラムを実施してDX人財の組織体制を構築しています。
出典:全社員4000人をDX人財化! サッポログループの「DX・IT人財育成プログラム」|『日本の人事部 HRテクノロジー』
地崎道路株式会社の事例
地崎道路株式会社は、道路や施設の舗装工事を中心に環境事業を営む企業です。同社では生産性の向上と働き方改革を目的としたDXを実施しています。
同社が抱えていた課題は、紙ベースの安全書類に関する業務が、現場担当者の労働環境に負担を与えていた点です。そこで従来の紙ベースの書類を廃止し、タブレット操作できるアプリケーションを用いて書類業務のペーパーレス化を導入しました。
これにより従業員がオフィスに戻って安全書類を作成する必要性がなくなり、現場担当者の労働時間の短縮に成功しています。
成功事例から読み解く課題解決のポイント・コツ
本章では、前述のDX推進を実施した2つの事例から読み解くDXの課題解決のポイントについて解説します。
業務の棚卸しをおこなう
前章2つの事例に共通しているのは、既存の業務プロセスが抱えている課題点を業務の棚卸しによって顕在化している点です。
サッポロビール株式会社の場合はサプライチェーンの持続、地崎道路株式会社のケースでは紙ベースの書類作成と、両社とも業務上に存在する非効率なポイントを的確に捉えています。
DX化できるところから進める
DX推進では全社的な取り組みが欠かせませんが、決して一斉にDX施策をスタートする必要はありません。
サッポロビール株式会社はDX人材の育成から、地崎道路株式会社は書類のペーパーレス化からDXをスタートしています。段階的にDXを実施していくには、できるところから始めるスピード感が重要です。
DX推進の担当者や担当チームを設置する
DX推進を円滑に進めるには専門のDX事業担当者やチームを設置するのが効果的です。
DX実施時に、サッポロビール株式会社は「改革推進部」を、地崎道路株式会社は「ICT推進課」を発足させて運用しています。
現場にとって使いやすいツールを採用する
地崎道路株式会社のDX事例では、書類業務のペーパーレス化にあたって、タブレット端末から簡単に書類を作成できるアプリケーションを導入しています。
DXの実現では従業員に一定のITリテラシーを必要としますが、ツールは現場サイドのことも考慮して使いやすいものを用意しましょう。
まとめ
DX推進には実現を妨げる多様な課題が存在します。どの課題に関しても、ひとつとして放っておいてよいものはありません。今は問題がなくても、DXの実施では問題が顕在化するからです。
課題の中でも特にDX推進の妨げとなるのは「レガシーシステム・人材不足・IT投資の難航」です。これらの課題は日本企業のIT教育不足や労働人口の減少など社会問題とも深く結びついているため、解決が難しいとされています。
上記の課題をクリアする第一歩として「RPA」の導入がおすすめです。弊社が提供する「ロボパットDX」は、ITの基本業務やデータ収集の自動化によって、DXに関わる業務負担を大幅に軽減します。この機会にぜひ、RPAを活用したDX推進をスタートしていきましょう。