RPAとは?
RPAとは、Robotic Process Automationの略称で、ロボットを活用し、業務プロセスを自動化させるものです。主にホワイトカラーがパソコンを使って行う業務を自動化するものですが、このRPAが注目されるようになった背景には政府が主導し、普及を進めている働き方改革にあります。
働き方改革は「長時間労働の是正」「非正規雇用社員の待遇改善」「柔軟性のある働き方」の3つを柱としていますが、そのなかでも長時間労働の是正は多くの企業で喫緊の課題です。そこで、業務自動化により、効率化を図り、生産性向上を実現するRPAに注目が集まり、導入を進める企業が増加しているのです。
RPAでできること
まずは、一般的にRPAよって実現できることについて主なものを紹介します。
・単純なルーティンワーク
小売店舗から送られてくる売上報告書を売上管理システムに書き込む、従業員から提出される交通費や交際費などの領収書を財務管理システムに書き込むなど、手順が決まっている単純なルーティンワークを自動化します。
・顧客へのメール
顧客管理システムに登録されている顧客に毎月新商品情報をメールする、よくある問い合わせに対して事前に作成されている回答文書をメールで返信するなど。
・データの収集、分析
決められたWebサイトから定期的に商品情報を収集して自社商品との比較表を作成する。業種別に毎日の株価を収集してグラフ化する。ネットアンケートの結果をグラフにし、分析を行うなど、データの収集、分析もRPAで自動化が可能です。
・異なる業務システム間を横断した作業
自社で活用している複数の業務システムを横断し、相互で情報の登録、抜き出しといったことも可能です。例えば、顧客管理システムから特定地域の顧客データを抜き出し、営業管理システムに登録する、グループウェアに書き込まれた勤怠を抜き出し財務管理システムに書き込み給与計算を行うといったことが行えます。
【全部署共通】RPA導入のポイント
RPAで行える主な業務の自動化を見たところで、次は実際にRPAを導入するうえでどういった点に注意すべきか、まずは部署にかかわらず全部署共通のポイントについて見ていきます。
まずは業務の棚卸しから
RPA導入の検討をする際、まずやるべきは業務全体の棚卸しです。現在、それぞれの部署で行っている業務をすべて洗い出し、どの業務にどれだけの時間を費やしているかを可視化します。
それぞれの業務と業務時間を可視化したら、次はその中から業務を進行していくうえでボトルネックになっている業務を見つけ出します。そして、ボトルネックになっている業務をRPAで自動化した場合、どれぐらい効率化がなされるかを明確にします。
ちなみに、業務の棚卸しを行う際、それぞれの業務手順をメモにして残しておきましょう。そうすることで、担当者が変わったり、RPAのメンテナンスを行ったりする際、誰も手順がわからないといったトラブルがなくなり、スムーズに再設定や修正が行えます。
RPAが自動化しやすい業務を知る
業務の棚卸しを行い、ボトルネックを明確にするのと同時にやるべきポイントとして、RPAが自動化しやすい業務の把握があります。RPAでは、基本的にはパソコンで行うほとんどのルーティンワークを自動化させられますが、なかにはRPAが上手く機能しない業務もあります。それは業務のなかにイレギュラーなものが含まれているものです。
例えば前出の交通費や交際費の領収書の数字が英数字だけではなく漢数字も含まれている、アンケート用紙の集計作業で、個人情報の入力フォームが複数ある、売上情報の入力で、半角入力の部分に全角で入力されてしまっているなど、手作業であれば気づいて修正できるものでもRPAはそれが正しい、間違っているの判断はできません。
もちろん、それらのイレギュラーがあることを事前に想定したうえで設定を行えば対応も可能ですが、イレギュラーである以上、すべてを事前に把握するのは困難です。そうした意味で、簡単に自動化できるものとそうでないものがあると事前に把握し、ボトルネックとなる部分が自動化しにくい場合は、それに応じた対応を考える必要があります。
これらの問題はオペレーションのルールを統一することで、RPA化が可能になる場合もあります。
導入を推進する部署やチームを明確に
自社のボトルネックとRPAが自動化しやすい業務を把握したら、次は導入を推進する部署、チームを明確にしていきます。基本的にRPAは導入してすぐに結果が出るとは限りません。ほとんどの場合、計画を立て、実践、上手く行かなければ改善をしてまた実践というPDCAを回してく必要があります。
そのため、やるべきことはボトルネックとなる業務とRPAが自動化しやすい業務が一致している部署、チーム、そして、一致していない部署、チームの明確化です。これにより、RPA導入後にまず、手をつけていくべき業務と部署、チームが見えてきます。
まずはスモールスタートで試してみる
業務のボトルネックとRPAが自動化しやすい業務が一致した部署、チームが見えてきたらそこから導入を進めていきたいところですが、ことはそれほど簡単ではありません。なぜなら、RPA自体、まだまだ新しいツールのため、従業員のなかにはその効果に懐疑的な層が少なからず存在する可能性があるからです。
また、RPAに限らず、そもそも新しいITツールに抵抗感、拒否感を強く持つ層もいるでしょう。そうした従業員がいる部署、チームにRPAを導入しようとしても、なかなか理解が得られず、導入を進めていくのは困難です。
そこで、まずは業務のボトルネックとRPAが自動化しやすい業務が一致しているうえ、RPAを積極的に活用したいと考えている部署、チームから導入を進めていきます。そのほうが成功の可能性が高く、その後の利用拡大もしやすくなります。そうした意味でもまずは一つの部署、チームの一つの業務からスモールスタートで試してみるのが、RPA導入成功のポイントです。
【部署別】RPAの活用シーン例
前項では全部署共通のRPA導入ポイントについてお伝えしました。次は部署別にRPA活用シーンの例を見ていきます。
経理部での活用例
経理部はほかの部署に比べデータ入力が必要な業務が多いため、RPAが効果を発揮するシーンも少なくありません。
毎月発生する決算報告書、取引先への請求書の作成、従業員が提出する領収書の財務管理システムへの登録業務などの自動化。また、OCR(光学文字認識)とRPAを連携させれば、手書きの請求書、領収書などを読み取り、自動で集計するため、大幅な業務時間の短縮が実現します。
ほかにも、Excelにまとめられた収支報告と財務管理システムとの突き合わせ業務にもRPAが効果を発揮します。経理業務は定型的なルーティンワークが多くありますが、金銭がかかわるため、ミスは許されません。そういった意味でもRPAを使い自動化することで、業務効率が上がるうえ、ミスの軽減も可能です。
総務部での活用例
総務部でのRPA活用事例としては、注文した備品の在庫管理、注文情報の備品管理システムへの書き込み。また、自社の株主に対し、定期的な情報メールの送信、株主総会への招待メールの送信などが挙げられます。
ほかにも税務署からの取引情報照会の依頼に対し、財務管理システムから該当する取引を検索、情報の抽出、税務署からの情報と照会などの自動化、営業社員の運転免許証の期限チェックなどもRPAによって効率化させられます。
総務部の定型的業務は企業規模にもよりますが、一つひとつは大きな手間ではないかもしれません。しかし、それがいくつも重なっているため、結果として手間が増え、本来の業務に割ける時間が減少してしまいます。そのため、それらのなかでも頻繁に発生する業務についてRPAを使い自動化させれば、業務効率は各段に向上するでしょう。
人事部での活用例
人事部でのRPA活用は、働き方改革の3つの柱の1つである長時間労働の是正に大きな効果を発揮します。例えば、毎月、労働時間を集計し、過重労働になりそうな従業員とその上司にメールで報告する、部署ごとに従業員の残業時間をまとめ、グラフ化し、一定値を超えた部署に対して注意勧告を行うなどが考えられます。
また、各年の人事考課表一覧の作成、上司が作成した考課結果のメール送信、新規採用時に入社希望者に対する面接日程の一斉メール送信、エントリーシートのデータ化、従業員に対する資格取得講座や社内勉強会スケジュールの情報提供なども自動化が可能です。
このように人事部では、長時間労働の是正以外にも考課結果や新規採用時などのメール送信も欠かせない業務です。しかし、その多くの業務はプライバシーにかかわるもののため、間違った相手にメールを送ってしまうといったミスが起きると自社の信頼にも影響が出てしまいます。RPAを活用すればそうしたリスクの軽減が期待できます。
営業部での活用例
営業部でのRPA活用例としては、営業業務の効率化として、過去の注文頻度に応じた再注文を促す、もしくは商談のアポイントを取るメールの自動送信、取引先から受け取った受注伝票を販売管理システムに自動的に取り込むなどが挙げられます。
ほかにも営業支援システムから、必要な情報だけを抜き出し、Excelでグラフ作成を行う、取引先のWebサイトを定期的に確認し、住所や電話番号などの変更があった際に顧客管理システムを書き換える、人事異動があった際にグループウェアに情報を書き、それを営業支援システムと同期させるなども行えます。
さらに、毎日の報告書もグループウェアや営業管理システムに記載したものを一括でまとめて報告書として自動作成させれば、帰社する必要性もなくなり、交通費の削減も実現します。これら営業業務に付随する業務を自動化させれば、本来の業務である商談やそのための資料作成に時間を割くことができ、生産性向上に大きく貢献します。
マーケティング部での活用例
マーケティング部でのRPA活用例としては、アンケート結果の集計、個人情報を抜き出し、顧客管理システムへ登録、登録したメールアドレスに定期的な商品情報の配信などが考えられます。
また、ECサイトから自社の競合となる商品のスペック、価格などを抜き出し、Excelに一覧表にまとめる。SNSで自社や自社商品に関する投稿を検索し、収集して特定のキーワードでポジティブなものとネガティブなものに分類するといったことも可能です。EC業界では、在庫管理を常に適正に反映させることにより、単なる業務削減ではない直接的な売上向上効果を見込む事も可能です。
ネットを活用すれば、さまざまな情報の入手が可能ですが、実際に手作業でこれを行うのはかなりの手間がかかります。そこでRPAを活用すれば、その手間がほとんどかからずに、自社にとって有益な情報の入手が実現します。
用途に応じて目的に合ったRPAの選択を
企業によっては、RPAはコスト削減ぐらいにしか効果がないと思われているかもしれません。しかし、RPAの本質は単純作業を自動化することで、その分の時間を本来の業務に集中できるようにすることにあります。
実際、今回、紹介した部署別の活用シーンを見れば、アイデア次第でさまざまな業務で効率化や生産性向上といった効果を発揮するツールであることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
また、RPAはそれ以外にも、単純作業ゆえについ忘れてしまう、ミスの許されない金銭管理のプレッシャーなどから解放されるという心理的負担の軽減効果もあります。さらにアルバイトでも可能な単純作業ではあるものの、重要な顧客情報に触れるため、正社員が行わなくてはならないといった業務からも解放されます。
ただし、RPAにはさまざまな種類があるため、選択を間違えると自社のボトルネック解消につながらない場合があります。実際に導入する際には、今回紹介した導入のポイントを参照いただき、自社の目的に合ったRPAの選択をおすすめします。