経済産業省が公開した3つのDXレポートとは?DXレポートの重要性
経済産業省(以下、経産省)がまとめた、日本企業におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の実現を促すための資料がDXレポートです。DXレポートには『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』『DXレポート2(中間取りまとめ)』『DXレポート2.1(DXレポート2追補版)』の3種類があります。
また、DXレポートの中で重点課題として触れられているものが「2025年の崖」問題です。ここでは「2025年の崖」問題がどのようなものなのか解説します。
「2025年の崖」問題とは
出典:経済産業省/DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~
「2025年の崖」問題とは、DXレポート内で経産省によって提言されたものです。日本企業がDXを実現できなかった場合、2025年以降に最大で毎年12兆円の経済損失につながると警鐘を鳴らしています。
2025年の崖が発生するといわれている原因は、日本企業の多くが複雑化・大規模化、かつブラックボックス化したレガシーシステムに依存しているため、市場の変化に柔軟に対応できなかったり、後継者の不在によりシステムの維持が困難になったりするためです。また、サイバー攻撃によるセキュリティ被害や、システムトラブルなどに見舞われる可能性も高いといわれています。
そのため、政府は日本企業にDX推進を励行し、レガシーシステムからの脱却を促している状況です。
なお、DXレポートと2025年の崖については、以下記事の内容もあわせてご確認ください。
【2022年版】中小企業もDX推進は必要?重要性や成功のポイントを解説
DX推進は必要?取り組むメリットや課題、成功に向けたポイントを解説
参考:経済産業省/DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~
3つのDXレポートの内容について
3つのDXレポートは、それぞれ内容が異なります。ここでは、各レポートの内容について確認しておきましょう。
レガシーシステムに警鐘を鳴らすDXレポート
1つめのDXレポートである『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』では、前述した「2025年の崖」問題を中心に、日本企業へDX推進を促す内容を中心に展開されています。
つまり、レガシーシステムに警鐘を鳴らすDXレポートだといえるでしょう。
DXレポートの内容は、大きく以下の3点です。
- 2025年の崖
- DX実現シナリオ
- DXの推進に向けた対策について
2025年の崖を回避するためには、日本企業がレガシーシステムから脱却しなくてはいけません。そのためには、AIやクラウドといった最新のIT技術を活用し、デジタル企業へ生まれ変わることが不可欠だといわれています。また、DXを実践できるデジタル人材の育成、および確保が重要だと提言している点もポイントです。
共創と即応の必要性を訴えるDXレポート2
2つめのDXレポートである『DXレポート2(中間取りまとめ)』は、おもに以下2点について展開されています。
- DX加速シナリオ
- DXの加速に向けた企業のアクションと政策
DXレポートが発行されたのは2020年12月だったため、ちょうど日本企業が新型コロナウイルスの影響を受けたタイミングでした。そのため、DX推進がまったなしの状況となり、DX未着手・DX途上企業向けに、レガシーシステムから脱却する必要性を説き、デジタル企業への変化を促したものがDX加速シナリオです。
また、DXレポート2では、日本企業が実施すべきアクションプランを「直ちに(超短期)」「短期」「中長期」の3つに分類し、何をするべきかを明確に示したことも大きな特徴といえるでしょう。アクションプランの実施に際しては、ITベンダーのサポートが不可欠であり、クライアントである企業と共創することによって、DXを実現することが求められると示唆しています。
ネットワーク型の産業構造を予見するDXレポート2.1
3つめのDXレポートである『DXレポート2.1(DXレポート2追補版)』は、DX推進による今後の産業の姿や企業のあるべき姿など、DXレポート2を補完する内容を示している点が特徴です。また、クライアント企業とベンダーがDXを推進したいと思う反面、現状の関係性を維持したいというジレンマを抱えていることも示唆されています。
また、デジタル産業には以下4つの企業が存在し、各々の得意分野を活かしながら、他社や顧客と共存するエコシステムの構築が不可欠であることにも触れられています。
- 企業の変革を共に推進するパートナー
- DXに必要な技術を提供するパートナー
- 共通プラットフォームの提供主体
- 新ビジネス・サービスの提供主体
これらを踏まえた上で、政府は変革を実現するためのDX成功パターンの策定を行っていく予定です。
DXレポート2.1については、以下記事の内容もぜひ参考にしてみてください。
参考:経済産業省/『DXレポート2.1(DXレポート2追補版)』
DXレポートで提起された課題
DXを実現するために解決するべき課題として、DXレポートで提起されたものは以下の6点です。
- DXを実行する上での経営戦略における現状と課題
- 既存システムの現状と課題
- ユーザ企業における経営層・各部門・人材などの課題
- ユーザ企業とベンダー企業との関係
- 情報サービス産業の抱える課題
- DXを推進しない場合の影響
ここでは、DXレポートで提起された各課題の内容について解説します。
DXを実行する上での経営戦略における現状と課題
日本企業がDXを実現するためには、市場の変化に柔軟な対応ができるITシステムを構築する必要があります。しかし、既存システムの問題点の把握や克服プラン、実施を担う担当者の役割を経営層が描き切れない点は課題です。また、大きな投資が必要になるため、ユーザ企業とベンダー企業の関係性の改変も必須といえます。
既存システムの現状と課題
多くの日本企業では、大規模・複雑化したレガシーシステムに依存した事業展開を行っているという現状があります。レガシーシステムは関連する部署や事業が多いため、ちょっとした改修や機能追加を行う場合でも、多くの工数やコストが発生します。そのため、市場の変化に柔軟に対応しにくいことが課題です。
ユーザ企業における経営層・各部門・人材等の課題
ユーザ企業の経営層は、DXの意味や必要性の認識が乏しく、全社的な推進を行いにくいのが現状です。また、各部門においては「IT=コスト」という認識が強く、導入が進めづらいことも課題といえます。さらに、DX推進の中核を担うデジタル人材が不在の企業も多く、DXを推進したくてもできないケースもあるため、人材の育成・確保が急務です。
ユーザ企業とベンダー企業との関係
現状、ユーザ企業がベンダー企業へ業務を丸投げしているケースが散見されます。そのため、要件定義などの詳細をユーザ企業が把握しきれず、トラブルに発展することが多いです。一方、ベンダー企業は定期的に業務を請け負えるため、現状の関係性を崩したくない意向が強いというジレンマもあります。また、ユーザ企業も社内リソースを抱える必要がないため、コスト削減につながっている事実があり、DX推進へ舵をきりにくい要因になっていることも課題です。
情報サービス産業の抱える課題
インターネット、スマートフォンが普及したことによって、顧客接点がデジタル化にシフトしました。そのため、情報サービス産業では、顧客体験の向上と、市場変化への迅速な対応が求められている状況です。
課題を解決するためには、顧客データや外部ソリューションを有効活用し、顧客価値の高い商品やサービスを迅速に提供することが不可欠でしょう。
DXを推進しない場合の影響
出典:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
DX推進をしない企業は、レガシーシステムの弊害から脱却できず、市場における競争力がなくなるため、継続的な成長が困難になることが課題です。また、システム障害の発生や、サイバー攻撃にあうリスクも高いでしょう。その結果、2025年以降、日本は最大で12兆円/年の経済損失につながる可能性があるといわれています。
DXの現状や、今後日本企業が取るべき対策については、以下記事の内容をご確認ください。
経済産業省が推奨している企業が取るべき対応策
DXを実現するためには、日本企業が抱えるさまざまな課題を解決する必要があります。経産省が掲げる、企業が取るべき対応策は以下の通りです。
- 「DX推進システムガイドライン」の策定
- 「見える化」指標、診断スキームの構築
- DX実現に向けたITシステム構築におけるコスト・リスク低減のための対応策
- ユーザ企業・ベンダー企業の目指すべき姿と双方の新たな関係
- DX人材の育成・確保
- ITシステム刷新の見通し明確化
ここでは、それぞれの対応策の内容を解説します。
「DX推進システムガイドライン」の策定
DX推進システムガイドラインとは、既存システムからの脱却や最新のデジタル技術を導入する際、必要となる体制や実行プロセスなどをまとめたものです。日本企業がDXを推進するとき、経営層や現場のスタッフがチェックリストのように活用することによって、滞りなく施策を進めやすくなります。
「見える化」指標、診断スキームの構築
出典:経済産業省/デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)
経営者自身がITシステムの現状と問題点を十分に理解し、自社のDX推進をリードするためには「見える化」指標の策定と、中立的な診断スキームの構築が必要です。「見える化」指標を策定するためには、技術的な実現性の可否や、自社データを活用できる範囲などについて把握しなくてはいけません。その上で、既存システムから新規システムへ移行する際に必要な体制や実行プロセスを検討し、中立的な立場でジャッジできるスキームの構築が必要です。
DX実現に向けたITシステム構築におけるコスト・リスク低減のための対応策
DXを実現するまでには、さまざまなリスクも想定されます。そのため、ITシステム構築におけるコストやリスクを低減するために、対応策の検討が必要です。具体的には、DX推進システムガイドラインに沿って達成するべきシステムを明確化し、無駄な機能を廃棄することで軽量化を行うことなどが挙げられます。また、新規システムを構築する際には、他社ソリューションの活用も視野に入れ、内製化による長期的リスクの回避を意識することも大切です。
ユーザ企業・ベンダー企業の目指すべき姿と双方の新たな関係
ユーザ企業とベンダー企業は、従前の関係性から脱却し、システムの再構築やアジャイル開発がしやすい新たな関係を構築しなくてはいけません。また、ユーザ企業とベンダー企業だけで全ての課題を解決することは困難なため、CIP(技術研究組合)などを活用することも重要です。その際には、トラブルの発生を想定し、ADR(訴訟手続によらない紛争解決方法)の活用も視野に入れましょう。
DX人材の育成・確保
DXを推進するためには、プロジェクトをけん引するデジタル人材の育成・確保が必須です。ただし、DXを推進するデジタル人材には、従前のような既存システムの運用・保守ではなく、業務のデジタル化を実現できるだけのスキルが求められます。そのためには、デジタル人材にアジャイル開発を実践させながら育成することが効果的でしょう。
ITシステム刷新の見通し明確化
出典:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
「2025年の崖」問題を回避するためには、2025年までに達成しなくてはいけないITシステムの姿を明確化することが必須です。従前のブラックボックス化したシステムから脱却するために、不要なシステムや機能を精査し、新たなシステムに刷新する見通しを立てる必要があります。
なお、DX推進を行う際、押さえるべきポイントについては、以下記事の内容を参考にしてみてください。
DXの進め方とは?成功のために押さえておきたい重要ポイント解説
まとめ
DXレポートは、以下の3種類です。
- 『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』
- 『DXレポート2(中間取りまとめ)』
- 『DXレポート2.1(DXレポート2追補版)』
日本企業がDX推進を行わず、レガシーシステムから脱却できない場合、2025年に大きな経済的損失を被る可能性を示唆するとともに、課題や解決策を提言しています。DX推進を行う日本企業にとって、重要な指標となるため、ぜひ有効活用してください。